チョン・ミョンフン(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団

深く没入して描かれる2つの名交響曲

チョン・ミョンフン ©K.Miura
チョン・ミョンフン ©K.Miura
 7月の東京フィルの定期に、同団桂冠名誉指揮者のチョン・ミョンフンが登場し《蝶々夫人》(演奏会形式)(22日、24日)と、交響曲プログラムを振る。オペラ座の監督も歴任してきたチョンと、“オペラが日課”といってもいい同フィルなだけに《蝶々夫人》の前評判が高いが、その直前(21日)にモーツァルトの交響曲第40番とチャイコフスキーの交響曲第4番による演奏会も予定されている。よくある名曲プログラム、と侮ってはいけない。こういうところに意外な良演が隠れている。
 チョンは2001年から東京フィルのスペシャル・アーティスティック・アドヴァイザーを10年にわたり務め、名演を連発した。筆者にとってのチョンの最大の魅力は音楽への没入の深さで、のってくるとオーケストラが朗々と歌い出す。それは欧米の指揮者にはあまり見られない、演歌調というか、ちょっと湿っぽいけれど琴線に直接語りかけてくるような歌だ。欧州での出番も多いチョンだが、自らアジア・フィルを設立したのをはじめ、ソウル・フィルでも音楽監督の職にあり、時には北朝鮮の楽団を指揮することも厭わない。アジアをつなぐ活動には当然国際親善という意味合いがあるだろうが、その根本を支えているのがこのアジア的な歌心なのではないか、と筆者はひそかに考えている。
 さて、その上での今回の演目。チョンのリードの特徴を知悉する東京フィルだが、このコンサートが侮れないのは、名曲であるがゆえに楽団員も曲をよく知っており、さらに2曲ともに短調で、哀愁を帯びた旋律が駆け抜け、過酷な運命に打たれる人間の苦悩が描かれるという点だ。核心にいきなり切り込んでくるのではないだろうか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年7月号から)

第103回 東京オペラシティ定期シリーズ
7/21(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522 
http://www.tpo.or.jp