優雅な気品と情熱を感じさせるピアノの貴公子
アレクサンダー・ロマノフスキーは、佇まいに落ち着きがあり、古い時代の作曲家の精神をごく自然に受け入れているかのような、クラシカルな気品の漂うピアニストだ。
1984年ウクライナに生まれ、97年に師のレオニード・マルガリウスを追って家族でイタリアに移住。2001年ブゾーニ国際ピアノコンクールで優勝し、国際的なキャリアがスタートした。11年のチャイコフスキー国際コンクール第4位入賞以降、日本でも人気が上昇し、リサイタルや国内主要オーケストラとの共演のためたびたび来日している。
特に今年は春から夏にかけて3度も日本を訪れ、7月には、大阪での日本センチュリー交響楽団定期公演と、東京、静岡でのリサイタルに出演する。
プロコフィエフについての独自の主張
大阪でステージに立つのは、なんと2001年のリサイタル以来だという。そして、今回共演する日本センチュリー響首席客演指揮者のアラン・ブリバエフとも、偶然同じ頃からの縁があるそうだ。
「彼が01年にイタリアのペドロッティ国際指揮者コンクールに優勝したあと、優勝者演奏会で共演しました。朗らかでアクティブな、優れた指揮者という印象です。今回は約15年ぶりの共演となります」
演目は、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番。この作品の解釈について、ロマノフスキーには独自の主張がある。
「この曲はよく、印象に頼って、単純化した二項対立的な演奏をされることが多いのです。でも僕は、プロコフィエフが表現しようとした多くのテーマやメロディを、一つひとつ全部伝えたい。彼自身の演奏の録音が残っていますが、これは現代の多くのピアニストが弾く表現とは全く違います。美しい音楽の中に、あふれる好奇心がこめられている。プロコフィエフは、チェスが得意で何ヵ国語も話し、パラドックスを好む人でした。彼がいかに頭脳明晰で心の広い人だったかが伝わる演奏をしたいです」
共通性と対照性を念頭に置いた選曲
一方リサイタルでは、シューマンとムソルグスキーを取り上げる。作品の共通性と対照性を念頭に置いて組んだプログラムだという。
「シューマンが自分の周りの人を描いたパーソナルな『謝肉祭』に対し、ムソルグスキーの『展覧会の絵』は、比較的客観的な対象を描いたものです。でも、どちらも作曲家が自分の目を通して何かを描くという共通性があり、並べて演奏したらおもしろいと思いました。
『謝肉祭』で描かれるのは、いわばとても普通の出来事なのですが、シューマンという天才の手にかかると、思いがけない深さや人生の重要な視点が浮き彫りになります。この曲の明るいお祭り気分もとても好きです。
『展覧会の絵』は1曲ずつに表題がつけられていますが、ムソルグスキーは、最終的にそれを表現することを放棄していたと僕は思います。結果、彼の情感やロシア的な感性、善良さと音楽への真摯な気持ちが表れた作品になっています。そしてなにより、音楽がすばらしい響きを持っている。そのあたりをしっかり表現したいですね」
独自の解釈と信念を、熱く静かに語る。優雅な気品を保ちながら情熱的な彼のピアノの表現にも、共通する説得力がある。
コンサートでは、天才作曲家たちが見た景色を、音楽で存分に再現してくれることだろう。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年6月号から)
日本センチュリー交響楽団 第210回定期演奏会
7/1(金)19:00、7/2(土)14:00 ザ・シンフォニーホール
問:センチュリー・チケットサービス06-6868-0591
http://www.century-orchestra.jp
【リサイタル】
7/5(火)19:00 紀尾井ホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp
他公演 7/7(木)静岡音楽館AOI(054-251-2200)