山田和樹(指揮)

若きマエストロとともに日々進化する合唱団

©Yoshinori Tsuru
©Yoshinori Tsuru

「中学生になるかならないかの頃、自分の所属していた児童合唱団を指揮したのが最初です」
 山田和樹の指揮人生の中で、合唱の占めるウェイトは小さくない。
「小学生の頃から漠然と指揮者に憧れて、鏡の前で指揮の真似をしたりしていましたが、歌うメンバーの前で実際に指揮をしてみて、みんなを率いている感覚に独特の陶酔感を覚えました。ものすごく気持ちの良いものだと知ったわけです。東京芸大に入学後、学外で指揮した初めての大きな演奏会も合唱。大学3年の時の武蔵野合唱団の定期演奏会でした」
 2016年1月、音楽監督を務める東京混声合唱団(東混)を振り、日本語歌詞の合唱名曲を聴かせる。音楽監督に就任したのは昨年だが、キャリアのごく初期の2005年に「コンダクター・イン・レジデンス」に抜擢されて以来、東混とは長い付き合い。
「最初の一振りで声が出た瞬間の感動をいまだに覚えています。やっぱりプロは違うのだなと。それまではプロの前に立つことに恐怖心があったのですが、東混でプロの演奏家との対峙の仕方、プロの“生態”のようなものを勉強させてもらいました」
 曲目には、「大地讃頌」など主にアマチュア合唱団が歌い継いでいる名曲の数々や、プロの技術あってこその洒脱な編曲の愛唱曲集が並ぶ。そして東混の十八番、柴田南雄のシアターピース「追分節考」。
「東混の指揮者は必ず『追分節考』を指揮します。この曲を指揮できなければ東混の指揮者は務まらないわけです。もっとも、指揮といっても、想像される通常の動作ではありません。指揮者が即興的に曲を組み立てていくのでセンスが問われます。また、二度と同じ演奏にはならない仕組みなので、まさに一期一会です」
 オーケストラと合唱とで、指揮する時に違いを意識することはないという。
「ただ、声楽は身体そのものが楽器なので、よりデリケートな印象はあります。そのためか、合唱の時は指揮棒を持たないことが多いです。岩城宏之先生がいつも『必ずオーケストラの指揮にも役に立つ。どちらも指揮できる指揮者はとても少ない』とおっしゃっていました。本当にそうだと思います」
 その岩城も「世界に誇れる合唱団」と愛した東混。近年はその活動に少しずつ変化も。
「たとえば、踊りながらディズニーやゴスペルを歌う彼らの姿は、少し前には想像しにくかったかもしれません。団員一人一人がとても前向きで意欲的であり、日々進化を遂げているのが東混の特徴です」
 世界が注目する若きマエストロとともに歩む老舗プロ合唱団。その真髄を満喫しよう。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年12月号から)

合唱名曲アラカルト 美しい日本の詞(うた) 山田和樹(指揮) 東京混声合唱団
2016.1/15(金)13:30 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp