INTERVIEW 挾間美帆――“世界で一番巧いビッグバンド”を率い、全国を駆け巡る!

挾間美帆 ©Dave Stapleton

 今、グラミー賞に最も近い日本人ミュージシャンのひとりであるジャズ作曲家 挾間美帆。彼女にインタビューするたび、その実直さと謙虚さに驚かされる。嘘もお世辞もいえないタイプなのだ。自己評価も厳しいし、身内びいきもしない。にもかかわらず彼女は自信をもってこう言う――いま、世界で一番巧いビッグバンドは、デンマークラジオ・ビッグバンド(DRBB)であると。挾間自身が2019年から首席指揮者を務めるこのビッグバンドの何がそれほど凄いのか? 来日ツアーに先立ち、話をうかがった。

――今回のツアーでは、デンマークラジオ・ビッグバンドを指揮した最新作『Frames』の楽曲が取り上げられます。これは、どのようなアルバムですか?

 コロナ禍が明けた後で、バンドから「60周年に向けて、こういう曲がほしい」と熱意を持って言ってくれたことが曲を作る一番大きな原動力になりました。だからバンドにとても感謝していますし、曲を聴いて「せっかくだから、きちんとアルバムにしよう」と言ってくれる仲間が周りにいることも、とても嬉しいです。
 そうして生まれた『Frames』は、デンマークラジオ・ビッグバンドが創立(1964年)から60年の間に擁してきた歴代音楽監督へのオマージュとして、音楽的な断片を題材に作曲を進めたアルバムです。バンドが歩んできた道と、私とバンドのメンバーたちがいま一緒に作る音楽が重なり合う、エモーショナルなプロジェクトになりました。

――ツアーのプログラム(セットリスト)は公演ごとに違うのですか?

 会場ごとに違う曲目を披露する予定なのですが、中心となるのは『Frames』なので、アルバム・リリース・ツアーと言っても過言ではないですね。そこにDRBBが60年以上の歴史でつちかってきた“黄金レパートリー”を少しずつ挟んでいこうと思っています。素晴らしいソリストが大勢いますから、全員に満遍なくソロが回るようにしたいですね。

――特に注目してほしい奏者は?

 みんなすごいんですけど、例えばアルトサックス奏者のニコライ・シュルツは、クラシックのオーケストラで首席奏者を務めていてもおかしくないくらい、フルートも上手いんです。普通に考えれば、システムの違う2つの楽器を演奏してくれるだけで御の字だと思わなければいけませんよね。でもニコライは上手すぎて、彼のために書いたパートは他のバンドでは演奏できません。

――彼の演奏するフルートは、アルバムのどの曲で聴けますか?

 『Frames』の最後に入っている「The First Notes」で、彼がソロを取っています。しかもニコライはアルトサックスでもいいソロを吹いてくれるんです。みんなは彼がフルートでソロを吹くことに慣れているので、私がアルトでソロを与えると、周りが「アルトでいいの?」と怪訝な顔をするんですよ(笑)。それほど彼のフルートがバンドの目玉になり、当たり前になっている。でも私は、アルトでも吹いてほしいと実は思っているので、時々こっそり入れています(笑)。
 同じようなことが、色んな楽器に当てはまるのが、このバンドの凄さです。もうひとりのアルト・サックス奏者であるピーター・フグルサングは、カール・ニールセンの協奏曲を吹けるほどクラリネットが上手ですし、ファースト・トロンボーンのピーター・ダールグレンは音域がとても広く、トロンボーンとは思えないほど小回りの利くフレーズを吹けます。

デンマークラジオ・ビッグバンド ©Emilia Therese

――バンドの60周年を記念した『Frames』の録音を経て、メンバーとの関係性に変化はありましたか?

 音楽だけじゃなく人生の様々な感情までバンドのメンバーたちと共有できるようになりました。昨年9月末に、DRBBの前首席指揮者で、私にとっては大学院時代の恩師でもある、ジム・マクニーリーが癌で亡くなったんです。バンドのみんなと「元気になってね」と色紙を書き、写真も撮ったんですよ。
 私は亡くなる1ヵ月半前にジムの自宅へお見舞いに行きました。彼が書いてくれたアレンジをデンマークラジオ・ビッグバンドが演奏したビデオを見せたりしたんです。その頃に作曲中だった「LuLu」のピアノのフレーズがずっと頭の中で鳴った状態で、泣きながら帰ってきました。そこから先は、“もう二度と会えないんだな”と思いながら書いたんです。

――そして彼が亡くなって2ヵ月後の11月にこのアルバムを録音されたんですね……。

 最後に会った時の話をしているうちに私がバンドの前で大泣きしてしまったら、皆ももらい泣きして、演奏できなくなったメンバーまでいたくらいでした。でも、その気持ちを全員で共有してから録った演奏は、その前にも後にもできない演奏だったと思います。あの時は、看板テナー・サックス奏者のハンス・ウルリクがソロを吹いていますが、全然普段と違う。もう、そのテイクで決まりでしたね。今回の経験を経て、バンドとの絆が一段深くなったと感じています。

――「LuLu」の後半でピアノがあるフレーズを少しずつ変化させながら繰り返していく部分が、明らかに尋常ではない雰囲気で強く印象に残ったのですが、そういう事情があったのですね……。

 ジムが亡くなってしまい、過去の首席指揮者でご存命なのは2人だけなのですが、そのうちのひとりパレ・ミッケルボルグも体調が良くないんです。デンマークラジオ・ビッグバンドも参加したマイルス・デイヴィスの『オーラ』(1985年録音)というアルバムで、プロデュースと作曲をしたトランペット奏者ですね。本当は今年、共演する予定だったのですが、直前にキャンセルになって、「もう演奏は無理だ」と引退されてしまった。私は結局、一度も音楽でご一緒できませんでした。そういう状況をバンドのみんなが寂しく感じているんですよ……。

最新アルバム『Frames』レコーディング時の一枚 ©Christian Larsen

――今回のように過去の作曲家を意識的に要素を取り入れることと、自分らしさをどう両立させるのでしょうか?

 過去を学び、分析することは非常に重要です。新しい発明は、それなしにはできません。学んだ上で、自分の好みにするなら、ここはやはりこちらがいいと考えて決める。過去に学んださまざまな好きなものを組み合わせ、自分の好きな作品を作っているだけかもしれません。そこに新しい発明がどれだけあるのかと言われたら……、自分には分かりませんね。
 その上で自分の曲には「挾間印」がついているといいなと思っています。意識的に「つけよう」と思うのではなく、「まあ、ついているでしょうね」と思いながら作っている感覚なんです。過去の首席指揮者7人に影響を受けたといっても結局は、それをどう自分の音楽に昇華し、外へ出すかの方が重要なんです。

――その「挾間印」を、言葉で説明できますか?

 言葉ではなかなか難しいですね。音楽を聴いていただくと、「あ、挾間っぽいな」という何かがあると思います。たとえば変拍子だったり、変拍子だったり……変拍子だったり(笑)。あとは自分でも不思議なんですけど、多くの曲が何故か8分前後になります(笑)。そこが自分にとって一番いい長さなのでしょうね。

――『Frames』に収められた挾間さんの楽曲は、クラシック音楽でいうとどんな作曲家に近いのでしょう?

 いい質問ですね。でも難しいなあ……。自分で結成したm_unitなら、ミニマル的なパッセージが多いのでスティーヴ・ライヒ!と簡単に言えるんですけどね。
『Frames』はビッグバンドなので、もう少しジャズ的。だからバーンスタインあたりでしょうか。あるいは、ハーフ・ホールトーン・スケール――クラシック音楽では八音音階や移調の限られた旋法第2番と呼ばれる音階をよく使うので、メシアンを足したガーシュウィンとか?(笑)。
 今回の収録曲でいうと「Aura II」あたりは、そう聞こえるかもしれません。和音自体を過度に複雑にせず――つまり現代音楽の方向には進まないまま、役割は変えずにスパイスの種類を増やせます。聞こえ方をより豊かに、格好よくする。そういうイメージで使っています。

――土台は分かりやすく、その上に複雑な彩りがある。だから挾間さんの音楽は流れを見失うことなく聴けるのかもしれませんね。

取材・文:小室敬幸


挾間美帆 デンマークラジオ・ビッグバンド

11/14(土)16:00 大阪/東京建物 Brillia HALL 箕面(箕面市メイプル文化財団072-721-2123)
11/15(日)16:00 兵庫/アクリエひめじ(姫路市文化国際交流財団079-297-1141)
11/17(火)19:00 大分/iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ(大分県芸術文化スポーツ振興財団097-533-4004)
11/18(水)19:00 東京/すみだトリフォニーホール(03-5608-1212)
11/21(土)16:00 栃木/宇都宮市文化会館(うつのみや文化創造財団028-636-2121)
11/23(月・祝)16:00 埼玉/所沢市民文化センター ミューズ アークホール(04-2998-7777)

出演
挾間美帆(指揮)、デンマークラジオ・ビッグバンド

プログラム
ジム・マクニーリー編「シング・シング・シング」
挾間美帆×DRBB 最新アルバム『Frames』から
 「And the Door Unsealed」
 「The First Notes」 ほか

https://music-partners.jp
※来日ツアーの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。


小室敬幸 Takayuki Komuro

1986年、茨城県出身。東京音楽大学で作曲を学んだ後、同大学院では音楽学を専攻。修了後は大学の助手と非常勤講師を経て、現在は音楽ライター。クラシック音楽、現代音楽、ジャズ、映画音楽を中心に演奏会やCDの曲目解説、雑誌やWEBメディアにインタビュー記事を執筆。また、現在進行形のジャズを紹介するMOOK『Jazz The New Chapter』にも寄稿している。共著に『聴かずぎらいのための吹奏楽入門』『ピアノへの旅』。