
取材・文:池田卓夫
2025年の第11回神戸国際フルートコンクールでイタリアのリカルド・チェラッキとともに第1位を得たドイツ人フルート奏者、ファビアン・ヨハネス・エッガー(2007年生まれ)が2026年10月、優勝記念の日本ツアーを行う。日程はリサイタルが18日の神戸文化ホールと19日の東京・浜離宮朝日ホール、デイヴィッド・レイランド指揮群馬交響楽団と共演するイベールの「フルート協奏曲」が24日の高崎芸術劇場と25日の東京・すみだトリフォニーホール。19歳で日本正式デビューに臨む期待を取材した。
――まずは神戸と東京のリサイタルへの期待をお聞かせください。
「本当に楽しみです。何が私を待ち受けているのかを考えると、とてもワクワクします。ある意味で“帰郷”を思わせるところがあるほど、これまでの日本での経験は全て、素晴らしいことばかりでした。リサイタルでは神戸を再訪する一方、東京の新しいホール、聴衆との新しい出会いがあり、興奮しています。私にとって特別な機会となるはずです」
――リサイタルのプログラムには、どのようなコンセプトがありますか?
「ドイツ人フルート奏者として、第1部でドイツの作曲家による素晴らしいフルート曲の数々を聴衆の皆さんに紹介する一方、第2部では私が個人的に深く敬愛する、純粋にフランス的な音楽言語に彩られた作品に光を当てます。リサイタルの2つのセクションをテーマ的に結びつける自作曲をあえて、第1部で演奏させていただく自由も確保しました。この作品、《Leben ist nicht genug(ドイツ語で『人生は十分ではない』)》は私のデビューCDのタイトルでもあり、フルートが神聖なるものと世俗的(人間的)なるものの仲介者となって、手の届かない世界への憧れを表現しています。それはまた、私のリサイタル全体を貫く1本の糸でもあります。このようなプログラムを神戸と東京で、ピアノの鈴木華重子さんとともに演奏できることを、とても光栄に思います」
――神戸国際フルートコンクールに出場していた当時の思い出、あるいは神戸の街そのものについてもお話しください。
「神戸についての最も古い記憶はもちろん、フルートコンクールの歴史と密接に結びついています。長くインターネットの観客の1人としてこのコンクールを追いかけており、神戸文化ホールも目に焼きついていました。いつか自分が、ここでコンクールの出場者として演奏することが夢だったのです。実際に神戸文化ホールに足を踏み入れるのは決して忘れることができない特別な体験であり、子どもの頃からの夢が叶った瞬間でした。コンクールの開幕はいつも、特別な感情を呼び起こします。そこで優勝できたことはもちろん“感極まる”もので、完全に実感できるまでには少し時間がかかりました。神戸という街自体にも、心の底から魅了されました。近代的な港エリアは夜のライトアップで一段と美しさを増し、食事とそのバラエティの豊かさはまさに最高!です」

――コンクール優勝者として臨む今回の日本ツアー、今のお気持ちは?
「素晴らしい気分としか、言いようがありません。神戸国際フルートコンクールに優勝していなければ日本ツアーの実現はなかったと痛感しており、大変光栄に思っています。ツアーの機会は間違いなく、第1位獲得の最大の特典です。何が私を待ち受けているのか、今はとても心が躍っています。さて、どうなるか? 楽しみです」
――群馬交響楽団とは本拠地の高崎だけでなく、東京でも共演しますね。
「この素晴らしいオーケストラと東京と高崎で演奏できること自体、大変な名誉です。群響の皆さんとともにイベールの『フルート協奏曲』を演奏できることを、心から楽しみにしております。このようなセッティングで素晴らしいコンサートが決まったことで、今の私は熱狂的ともいえる期待に満たされているところです。未知のコンサートホールとの出会いも、早く体験したいと思っています。音響に関しても興味津々です」
――イベールの「フルート協奏曲」の魅力はどのようなところにありますか?
「時代を超越した普遍性に尽きます。ジャック・イベールという作曲家を特定の時代様式、音楽運動と結びつけ、明確に位置付けることはできません。もちろん彼がフランスの印象派や近代音楽『6人組』のモダニズムといった主流、さらには新古典主義の影響を受けている実態は、作品を通じても明らかです。それにもかかわらず、この協奏曲は比類のない独創性を備え、私個人として、強く惹きつけられるものがあります。間違いなく、現存するフルートと管弦楽のための協奏作品の中で、最高傑作と呼べる楽曲の1つです」
長く「音楽ジャーナリスト」の仕事に携わってきた中、20歳に満たないソリストへの取材でこれほど理路整然、緻密なリアクションを得ることは稀だ。もちろん、日本での初リサイタルの曲目に自作を交える果敢さには若者らしい野心もあり、大きな期待を抱かせる回答の数々だった。
第11回神戸国際フルートコンクール 第1位記念
ファビアン・ヨハネス・エッガー フルートリサイタル
2026.10/18(日)14:00 神戸文化ホール(中)
10/19(月)19:00 浜離宮朝日ホール
出演/
ファビアン・ヨハネス・エッガー(フルート)
鈴木華重子(ピアノ)
曲目/
ライネッケ:フルート・ソナタ op.167 「ウンディーネ」
ファビアン・ヨハネス・エッガー:Leben ist nicht genug (Life Is Not Enough)
マイヤー=オルバースレーベン:幻想的ソナタ op.17
ドビュッシー:シリンクス
ヴァレーズ:密度 21.5
ルーセル:「笛吹きたち」op.27
プーランク:フルート・ソナタ
ジョリヴェ:リノスの歌
問:神戸文化ホールプレイガイド078-351-3349
https://kobe-flute.jp
群馬交響楽団 第622回定期演奏会
2026.10/24(土)16:00 高崎芸術劇場 大劇場
東京定期演奏会
10/25(日)15:00 すみだトリフォニーホール
出演/
デイヴィッド・レイランド(指揮)
ファビアン・ヨハネス・エッガー(フルート)*
濵地宗(ホルン/群響首席奏者)**
曲目/
カミーユ・ぺパン:花火(2025)[日本初演]
イベール:フルート協奏曲*
トマジ:ホルン協奏曲**
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 op.78 「オルガン付き」(オルガン:高橋博子)
問:群馬交響楽団027-322-4316
https://www.gunkyo.com

池田卓夫 Takuo Ikeda(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)
1988年、日本経済新聞社フランクフルト支局長として、ベルリンの壁崩壊からドイツ統一までを現地より報道。1993年以降は文化部にて音楽担当の編集委員を長く務める。2018年に退職後、フリーランスの音楽ジャーナリストとして活動を開始。『音楽の友』『モーストリー・クラシック』等に記事や批評を執筆する他、演奏会プログラムやCD解説も手掛ける。コンサートやCDのプロデュース、司会・通訳、東京音楽コンクール、大阪国際音楽コンクールなどの審査員も務める。著書に『天国からの演奏家たち』(青林堂)がある。
https://www.iketakuhonpo.com

