INTERVIEW 「教育」と「多角的な視点」 下野竜也&井上道義が語る、ひろしま国際指揮者コンクールに仕掛ける2本柱

左:井上道義/右:下野竜也

 「ひろしま国際指揮者コンクール」は、「ひろしま国際平和文化祭」(今年は8月1日から9月6日まで開催)の音楽部門のメイン事業として2022年に始まり、今年が第3回となる。前2回の入賞者たちが早くも世界各地に活躍の舞台を広げるなど、今注目の新しい指揮者コンクールだ。

 審査委員長が毎回交代することも特色の一つで、今回は井上道義がつとめる。文化祭の音楽部門プロデューサーであり、第1回の審査委員長もつとめた下野竜也は、「今回はぜひ道義先生にお願いしたいと思い、コンクールの概要をご説明申し上げたら、快く引き受けてくださいました。関係者だけでなく、クラシック界のさまざまな方が、それはよかったと喜んでくださったので、すごく嬉しく思っています」という。

井上「主体性がしっかりしたコンクールだし、出場者が1週間、お互いに交流できるように考えていると聞いて、これは面白いなと」

下野「この『ひろしま国際平和文化祭』では、コンクールだけでなく教育も重視されているんです。そこで僕が先生役になって、コンクールの前にマスタークラスをやり、出場者がディスカッションする場も設けています」

 5人の審査員の多彩さも特徴だ。

井上「濱田芳通さんはバロック音楽の分野で今いちばん輝いている指揮者だから、バロック音楽を通した目で見られる。篠崎史紀さんは、自分でオーケストラを作ったりしているから、コンサートマスターとしてだけではない目線で、指揮者のことを判断できる」

下野「自分がブザンソン国際指揮者コンクールを受けた時に、審査員に指揮者が少なくて、多角的な視点で評価されたのが、すごく印象的だったんです。そこでこのコンクールでも本選では、作曲家の細川俊夫さん、音響設計家として世界のホールを熟知されている豊田泰久さんにも審査していただきます」

 細川も豊田も広島出身であり、今も地域との関わりが深い。多角的でありながら地縁も重視されているのだ。

 予選出場が予定される17名は、19の国と地域からの87名の応募者から、映像審査で選ばれた。

下野「ハイドンの『時計』交響曲を課題曲にしたんですが、まるで振れていない人が多かったんです」

井上「ハイドンは基本だから、課題曲にするのはとてもいいこと。その人を裸にする。ハイドンが振れなかったらショスタコーヴィチも振れない」

下野「面白い応募者がいて、ハイドンを課題曲にするコンクールは他にないから、受けることを決めたというんです。ヨーロッパで勉強している学生でも、そうなんだなと」

 予選ではオーケストラ曲だけでなく、管楽合奏もあれば、井上作曲のミュージカルオペラ《降福からの道》を、歌手を交えて作曲者の前で指揮することも求められる。

井上「この曲にはフィリピンのタガログ語も、日本語もある。アジアのコンクールなんだから、特色を出していかないと」

下野「ヨーロッパ人の出場者もいるからどうかなと思ったんですが、日本人がイタリア語やドイツ語のオペラを指揮するのと同じことでしょ、と道義先生が言われて、なるほど!と納得しました(笑)」

 昨今の世界情勢を反映して、中国やロシアからの応募者が少なくなってしまったのが残念だが、国際性を大切にしたいというのが二人の願いだ。

井上「本選では、5人の審査員の意見がバラバラになって混乱し、下野さんが収拾に困るかもしれない(笑)。だからみなさんも、聴きに来ないと損ですよ!」

(ぶらあぼ2026年8月号より)

取材・文:山崎浩太郎

※本記事は『ぶらあぼ』8月号から転載していますが、一部内容に誤りがあることが判明いたしましたので、当該箇所を訂正しています。

第3回 ひろしま国際指揮者コンクール
一次予選
 2026.8/7(金)、8/8(土) 各日14:00
二次予選 8/9(日)14:00
本選 8/12(水)17:00
広島/JMSアステールプラザ
問 ひろしま国際平和文化祭実行委員会事務局(実施運営:中国放送内)082‐222‐1104
https://hiroshimafest.org/music/conductor_competition/


山崎浩太郎 Kotaro Yamazaki

1963年東京生まれ。演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(以上アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。
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