
4月に日本で初リサイタルを開く、ポーランド出身のカウンターテナー、ヤクブ・ユゼフ・オルリンスキ。彼の歌に、筆者はしばしば、雪の結晶を連想する。「二つとして同じ形がない」という不思議な構図が、彼の繊細な歌いぶりとオーバーラップするからだ。特に、バロック期のパーセルのソングに、そのイメージを強くする。というのも、この作曲家には「同じ音型や言葉を畳みかける」傾向があり、オルリンスキがそれを声に乗せると、一つひとつが微妙に異なる光を放つのである。今回、ワルシャワの自宅に戻ったばかりの彼に、オンラインでインタビューした際、真っ先にその印象を伝えてみたところ、はにかみながらも、こう答えてくれた。
「本当にありがとう! これまでずっと、ピアニストのミハウ・ビエルと一緒に解釈を練り上げてきたんです。ただ、バロック期の作品をピアノの音色と共に歌うことには、実のところ、けっこうな勇気が要るんですよ。『作曲当時の演奏スタイルや楽器の音色をまずは復元せよ』という考え方が今は主流じゃないですか。でも、僕たちはまず、『自分たちなりの解釈の結果として、演奏を聴いていただきたい』と強く感じているので、東京でも、パーセルの歌劇《アーサー王》の有名な〈コールド・ソング〉や、《アグリッピーナ》や《ロデリンダ》といったヘンデルの名作オペラのアリアを、ピアノ伴奏で歌うことに決めました。ビエルは本当に初来日なので、僕が『とてもエキサイティングな国』といろいろ教えたら、いまからすごく興奮しているんです(笑)」
そう、実はオルリンスキ自身は2024年にプライベートで日本を訪れているのである。
「東京に着いたその日に、見るものすべてが本当に面白くって、ガールフレンドと一緒に20kmも歩き回りました(笑)。その後、大阪や広島にも行き、京都では彼女にプロポーズして婚約できたんだよ!」
えっ! それは本当におめでとうございます!
「ありがとうございます! だから、4月のステージも楽しみでしょうがないんです。思い出の地を再訪できて、しかも、僕の生の歌を、やっと日本の皆さまに聴いていただけるのだから。ところで、リサイタルの後半は、ポーランド語の歌曲を纏めてお届けするつもりです。僕の国の美しい言葉と優れた作曲家たちの作品をぜひ味わってほしいんです」
なるほど。筆者が特に注目するのは、シェイクスピアの詩のポーランド語訳に20世紀のバイルトが曲をつけた「4つの愛のソネット」である。
「ネオ・クラシックのコンセプトで作られた曲なので、とても聴きやすいですよ! あと、ポーランドでは有名な早逝の作曲家カルウォヴィチの歌曲も親しみやすいので、ぜひ聴いてください」
ところで、オルリンスキといえば名歌手であるとともに、ブレイクダンスのポーランド選手権で優勝したダンサーでもある。パリ・オリンピックの開会式でも彼のパフォーマンスが話題を呼んだが、リサイタルではその辺りはいかが?
「コンサートでは基本、じっと立って歌うよ(笑)。曲調を守りたいからね。でも、もしアンコールのお声がかかれば、何かが起きるかも(笑)。歌のステージは初めての方にもぜひ楽しんでもらいたいです。ご来場お待ちしています!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2026年3月号より)
ヤクブ・ユゼフ・オルリンスキ リサイタル
2026.4/10(金)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:テンポプリモ03-3524-1221
https://tempoprimo.co.jp
他公演
2026.4/9(木) 兵庫県立芸術文化センター(0798-68-0255)

岸 純信 Suminobu Kishi
オペラ研究家。『ぶらあぼ』ほか音楽雑誌&公演プログラムに寄稿、CD&DVD解説多数。NHK Eテレ『らららクラシック』、NHK-FM『オペラファンタスティカ』に出演多し。著書『オペラは手ごわい』(春秋社)、『オペラのひみつ』(メイツ出版)、訳書『ワーグナーとロッシーニ』『作曲家ビュッセル回想録』『歌の女神と学者たち 上巻』(八千代出版)など。大阪大学非常勤講師(オペラ史)。新国立劇場オペラ専門委員など歴任。

