文:高坂はる香
世界の若手ピアニストから重要視される国際ピアノコンクールの一つとして、回を重ねるごとにその存在感を強くしている、高松国際ピアノコンクール。
四国初の地元主導による国際的な音楽コンクールとして2006年にスタートし、基本的に4年に一度開催、今度が第6回となる。会場は、瀬戸内海に臨むサンポートホール高松。今回から青柳晋が審査員長に就任し、新たなスタートを切る。

過去のコンクール参加者を見てみると、のちにリーズ国際ピアノコンクールで女性初の優勝者となったソフィア・グルャク(2006年第1回ファイナリスト、今回の予備審査員)、2014年第3回優勝、同年のジュネーヴ国際音楽コンクール ピアノ部門や翌年のブゾーニ国際コンクールも制したムン・ジヨン、2018年第4回優勝、のちにパデレフスキやダブリン国際ピアノコンクールに入賞した古海行子、2019年すでにパデレフスキ国際ピアノコンクールに優勝していたフィリップ・リノフ(2023年第5回優勝)などが名を連ね、高い実力を持つピアニストたちが挑んでいることがわかる。

応募可能年齢は、15歳から35歳と上限が多くのコンクールより少し高めに設定されており、すでに自らの音楽をしっかり確立したピアニストのエントリーもあるのがおもしろいところ。
今回のコンテスタントは、15ヵ国から集った47名の若者たち(2026年1月20日現在)。その一部の顔ぶれを紹介しよう。
まず注目したい日本からの参加者は、細川萌絵、池邊啓一郎、稲積陽菜、倉橋陽土、丸山凪乃、小野寺拓真、鈴木優輔、竹澤勇人、横山瑠佳の9名。国内外のコンクール入賞者をはじめ、世界各地の名教師のもとで研鑽を積むピアニストも多く、気鋭が揃う。
海外からのピアニストでは、2021年マリア・カナルス国際ピアノコンクール第3位、2025年Shigeru Kawai国際ピアノコンクール第5位のラファエル・キリチェンコ(ポルトガル)、2023年シドニー国際ピアノコンクール優勝、2022年仙台国際音楽コンクール第4位のキム・ジョンファン(ドイツ)をはじめ、優れた実績を持つ面々がエントリー。個人的に挑戦を嬉しく思ったのは、最年長35歳、ウクライナのダニーロ・サイエンコ。2015年マリア・カナルス優勝という実績だけでも注目に値する存在だが、ロシアのウクライナ侵攻が始まったばかりの2022年、パデレフスキ国際ピアノコンクールで第3位となった際、審査員のラファウ・ブレハッチが彼について、“知性と情緒のバランスがすばらしい。ミケランジェリのスタイルを思い出させる”と絶賛したことが印象に残るコンテスタントだ。
そのほか、10名と最多の参加者数となった韓国勢も華やかな実績の持ち主ばかり。8名の参加がある中国勢では、先のショパンコンクールでそのずば抜けた優秀さが話題となったティーンエイジャーの層からも出場があるので、どんな未知の才能が現れるか注目したい。

◎出場者一覧(アルファベット順/2026年1月20日現在)
1. アレキサンダー・アゲート Alexander AGATE(アメリカ)31歳
2. パウリウス・アンダーソン Paulius ANDERSSON(リトアニア/デンマーク)31歳
4. ステファン・ボネフ Stefan BONEV(ブルガリア)32歳
5. チャ・ジュンホ CHA Junho(韓国)20歳
6. エカテリーナ・チェボタレヴァ Ekaterina CHEBOTAREVA(ロシア)28歳
7. チェ・ウソク CHOI Wooseok(韓国)27歳
8. チェ・ヨンスン CHOI Young Sun(韓国)32歳
9. チョン・スンホ CHUNG Seungho(韓国)16歳
11. トム・ドマーニ Tom DOMANI(ポルトガル)25歳
12. ロマン・フェディウルコ Roman FEDIURKO(ウクライナ)21歳
14. グゥオ・イーミン GUO Yiming(中国)24歳
15. ハ・ギュテ HA Gyu Tae(韓国)29歳
16. 細川萌絵 HOSOKAWA Moe(日本)27歳
17. 池邊啓一郎 IKEBE Keiichiro(日本)32歳
18. 稲積陽菜 INAZUMI Hina(日本)22歳
19. アダム・ジョージ・ジャクソン Adam George JACKSON(イギリス)22歳
21. ジン・ジェンファ JING Zhenhua(中国)23歳
22. キム・ハヨン KIM Hayoung(韓国)24歳
23. キム・ジョンファン KIM Jeonghwan(ドイツ)25歳
24. 倉橋陽土 KURAHASHI Haruto(日本)21歳
25. ラファエル・キリチェンコ Rafael KYRYCHENKO(ポルトガル)29歳
26. アンドラーシュ・ラカトシュ András LAKATOS(ハンガリー)21歳
27. イ・セボム LEE Saebeom(韓国)29歳
29. デルヴァン・リン Delvan LIN(ニュージーランド)26歳
30. リュー・ヤナン LIU Yanan(中国)21歳
31. マー・カー MA Ke(中国)31歳
32. ジョナサン・マク Jonathan MAK(カナダ)28歳
33. 丸山凪乃 MARUYAMA Nagino(日本)26歳
34. クリスティーナ・ロム・モディッチ Kristina Romm MODITCH(アメリカ/ロシア)25歳
35. 小野寺拓真 ONODERA Takuma(日本)20歳
36. ジョスカン・オタル Josquin OTAL(フランス)33歳
37. パク・ヘリム PARK Haerim(韓国)19歳
40. ダニーロ・サイエンコ Danylo SAIENKO(ウクライナ)35歳
41. スン・ハオルン SUN Haolun(中国)21歳
42. 鈴木優輔 SUZUKI Yusuke(日本)27歳
43. 竹澤勇人 TAKEZAWA Yuto(日本)28歳
44. ガスパール・ポール・ジュリアン・トマ Gaspard Paul Julien THOMAS(フランス)28歳
45. エリザベス・ツァイ Elisabeth TSAI(アメリカ)26歳
46. クリスティ・ウー Christy WU(アメリカ)22歳
47. シン・コンヤン XIN Kongyan(中国)17歳
48. ヨ・ユンジ YEO Yoonji(韓国)21歳
49. ドミニク・ヨーダー Dominik YODER(アメリカ)23歳
50. 横山瑠佳 YOKOYAMA Ruka(日本)30歳
51. ユ・テウン YOO Taewoong(韓国)27歳
52. ジャン・ボーアオ ZHANG Boao(中国)22歳
53. ジャン・ズージェン ZHANG Zijian(中国)28歳
54. ハーモニー・ジュウ Harmony ZHU(カナダ)20歳
※年齢は2026年2月10日時点

ソロの課題曲は、バッハや、モーツァルトとベートーヴェンのソナタ、リストの練習曲、日本人作曲家・桑原ゆうによる新作委嘱作品など。注意深く設定されたことが垣間見られる指定曲で、若者たちのスキルが隅々まで浮き彫りになる。
また第3次審査では、前々回から課題に入ったピアノ四重奏曲で、優れた弦楽器奏者たちが共演する。ベテランが経験の豊かさを発揮するか、フレッシュな感性が共演者を刺激するか。演奏家としてのコミュニケーション能力も試される。
そして本選では2日間にわたり、5人のファイナリストが広上淳一指揮、瀬戸フィルハーモニー交響楽団との共演で、ショパンやチャイコフスキー、ラフマニノフなど、指定された定番のピアノ協奏曲を演奏する。そこから誰が新しい高松発のスターとなるのか、さらにその後、入賞者たちがどんな活躍を見せ、どんなピアニストになっていくのか。近年、ますますレベルが上がり、光る才能が羽ばたいているだけに、その後を見守る楽しみも長く続きそうだ。
コンクールの演奏はオンライン配信でも聴くことができるが、この機会に高松を訪れ、瀬戸内観光を楽しむのもおすすめ。
高松でまず外せないのは、なんといっても本場の讃岐うどん! うどん消費量ナンバーワンの香川県最大の街である高松には、老舗から新しいお店まで、また営業スタイルも、座席でオーダーする形やセルフから製麺所の一角までと幅広く、毎食うどんで名店巡りをしても飽きることがない。腹ごなしには、“お庭の国宝”と称される特別名勝、栗林公園を散策するのも良い。


また、高松港からフェリーで片道1時間弱、島中にモダンアートが点在する世界的に有名なアートの島、直島への日帰り旅行もできる。そのほかにも、鬼ヶ島伝説の残る女木島や独特の景観を持つ男木島、風光明媚な“オリーブの島”として知られる小豆島など、瀬戸内の自然と食を満喫できる場所がたくさんある。コンクール空き日に足を伸ばしたい魅力的スポットがたくさんあるので、現地を訪れるならスケジュールに余裕をもって滞在したい。

ここから瀬戸内の島々への便が出ている
◎第6回高松国際ピアノコンクール https://www.tipc.jp
第1次審査 2/10(火)~ 2/12(木)各日10:30〜
結果発表 2/12(木)20:00〜
第2次審査 2/14(土)~ 2/15(日)各日10:00〜
結果発表 2/15(日)19:30〜
第3次審査 2/17(火)14:00〜、2/18(水)13:15〜
結果発表 2/18(水)20:15〜
本選 2/21(土)14:30~、 2/22(日)13:00〜
表彰式 2/22(日)16:00〜
入賞者披露演奏会 2/23(月・祝)19:00〜
サンポートホール高松 大ホール
※スケジュールは変更になる場合があります
課題曲 https://www.tipc.jp/repertoire_ja.html
◎審査員
審査員長:青柳晋 AOYAGI Susumu(日本)
ヴィンチェンツォ・バルツァーニ Vincenzo BALZANI(イタリア)
パスカル・ドゥヴァイヨン Pascal DEVOYON(フランス)
海老彰子 EBI Akiko(日本)
池辺晋一郎 IKEBE Shinichiro(日本)
ヤン・イラーチェク・フォン・アルニム Jan JIRACEK VON ARNIM(ドイツ)
ヨヘヴェド・カプリンスキー Yoheved KAPLINSKY(アメリカ)
キム・デジン KIM Daejin(韓国)
カタジーナ・ポポヴァ=ズィドロン Katarzyna POPOWA-ZYDRON(ポーランド)
アンティ・シーララ Antti SIIRALA(フィンランド)
ウェイ・ダンウェン WEI Danwen(中国)
◎指揮者・オーケストラ(本選):広上淳一(指揮) 瀬戸フィルハーモニー交響楽団
◎委嘱曲作曲家(第3次審査課題曲):桑原ゆう
◎室内楽奏者(第3次審査):
北田千尋(ヴァイオリン)、田原綾子(ヴィオラ)、笹沼樹(チェロ)
篠原悠那(ヴァイオリン)、松実健太(ヴィオラ)、長谷川陽子(チェロ)
◎公式ピアノ:ベーゼンドルファー、カワイ、スタインウェイ、ヤマハ
チケット情報
https://www.tipc.jp/ticket_ja.html
高松国際ピアノコンクールYouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@5thtipc68

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/

