黒田博&黒田祐貴——父子バリトンによるデュオリサイタルが再び!

左:黒田祐貴 右:黒田博

 あの二人が帰ってくる! 2024年10月に浜離宮ランチタイムコンサートで初めて共演を果たした、黒田博と黒田祐貴のバリトン親子だ。大好評につき今回は、浜離宮朝日ホール(26.1/30)と、神戸朝日ホール(2/1)で二人の歌声が響く。日本を代表するバリトンとして幅広いレパートリーを歌ってきた父・博と、卓越した音楽性と演技力で今や大人気の息子・祐貴が、それぞれの得意曲を歌い、息のあった重唱を聴かせるコンサートである。

「元々は、私にリサイタルのお話をいただいたんです。ただ、一人でやるのは大変なんですよ(笑)。これまでモーツァルトやワーグナー中心のリサイタルは何度かやってきましたが、皆さん、それはもう聴いた、と思われるでしょうし。そう漠然と考えていたら、私がこういう風に歌いたいという歌を歌ってくれるバリトンがこんな近くにいるじゃないかと思って、息子に声をかけたのがはじまりでした」

 前半は「日本のうた」「昭和の子どものうた」、そして後半は「名オペラのアリア&重唱」という構成だ。その間に新しい試みの「リクエスト曲のコーナー」もある。前回、子どものうたの二重唱では、一人が歌っている時のもう一人の動物の鳴き真似などが面白すぎて、会場は笑いの渦に包まれた。

「私の場合『歌曲』となると構えてしまうけれど、子どものうたって思うとフッと楽になる部分があります。今回歌う曲も、大作曲家の先生方が心血を注いだ素晴らしい作品ですが、歌っていて気持ちが楽なんです。それは声楽を始めてから出合った曲と違って、子どもの時に『どうしておなかがへるのかな?』って家でお茶碗をたたきながら口ずさんでいた、そんな感じで歌えてしまうからなのではと思います」

祐貴「僕は父と比べると、日本のうたにそこまで構えていないかもしれません。〈めだかのがっこう〉〈ぞうさん〉〈おもちゃのチャチャチャ〉など昭和の子どものうたは、なぜかわからないけれど、小さい頃から知っていました。でも歌曲との境界線は引いていないし、どの曲も聴いていて素敵だなと思います。違いは確かにあるけれど、テンションとしては僕はあまり変わらずに歌っている感じがします」

 バリトンの魅力についての二人の意見はこうだ。

「モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》は、バリトンが歌うことによって多彩な色が出る役の典型。それから《オテロ》ヤーゴや《トスカ》スカルピアなどの悪役も、この声種ならでは。ふくよかな包容力があると見せかけて、その裏にギラっと光る悪さがあったり、同じ黒でも様々な黒が表現されているんです。それを全部出せるのがバリトン。自分がそれをできるとは思わないけれど、それを狙うことはバリトンにしかできない」

祐貴「聴衆目線で考えた時に、テノールはやはりオペラの中に有名なアリアがあって、その高音に注目されがちだと思うんです。それに比べるとバリトンはオペラの芝居全体を通して、役をいかに音楽的に聴かせられるかが求められている気がします。演じる側からすれば、それが大変さであり、魅力でもあります」

 リクエスト曲コーナーには、前回来られなかったファンから、またあの曲を歌ってほしいという希望も届くそう。

「いただいた希望を参考にして、その中から自分も納得して歌える曲をお届けしたいと思っています。それ以外の日本のうた、そしてオペラ・アリアは舞台で演じたもの、演じてみたいものなどになりますが、子どものうたコーナーでは、リラックスした状態で客席とやりとりができることが楽しみです。もしかしたら親子漫才も見られるかもしれません(笑)」

祐貴「小さなお子さんが聴きに来てくれるなら、何か曲を口ずさんで帰れるくらい、楽しいものになればと願っています」

 ピアノは今回も息子の祐貴が長年共演を重ねている大貫瑞季。二人のバリトンの、歌と演技を堪能できそうだ。

取材・文:井内美香 写真:野口 博

(ぶらあぼ2025年12月号より)

黒田 博 & 黒田祐貴
バリトン・デュオリサイタル2026
2026.1/30(金)19:00 浜離宮朝日ホール
2/1(日)15:00 神戸朝日ホール

出演
黒田 博、黒田祐貴(以上バリトン)、大貫瑞季(ピアノ)
曲目
團 伊玖磨:花の街、ぞうさん
山田耕筰:からたちの花、鐘が鳴ります
中田喜直:めだかのがっこう、大きなたいこ
越部信義:おもちゃのチャチャチャ
モーツァルト:オペラ《フィガロの結婚》より〈男どもよ、ちょっと目を見開け〉
ワーグナー:オペラ《タンホイザー》より〈夕星の歌〉
コルンゴルト:オペラ《死の都》より〈わが憧れ、わが幻想〉 他

問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990(1/30)
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/
問:フェスティバルホール チケットセンター06-6231-2221(2/1)
https://www.kobe-asahihall.jp