フランスの鬼才パスカルが大胆に導く、読響の「第九」

 年末になると、日本各地のオーケストラが一斉に同じ交響曲を演奏する。ベートーヴェンの交響曲第9番だ。王権や宗教が人々を抑圧した時代に、自由と平等、友愛を求めて高揚していく名曲中の名曲である。年の瀬にこの曲を聴くということは、今日でもまだ達成されていない、理想的な市民社会に思いを馳せることにもなろう。

マキシム・パスカル ©読響 撮影=藤本崇

 そんな数多い「第九」公演のなかでも、今年の読響はかなり意欲的だ。なんといっても、指揮台に上がるのが、マキシム・パスカルだからだ。
 この1985年生まれのフランス人は、いまもっとも尖った活動をしている指揮者のひとり。ル・バルコンというグループを創設し、数多くの現代作曲家とコラボレーション。デビュー盤となったベルリオーズの幻想交響曲では、ジャンルを越境した大胆すぎるアレンジによる演奏が大きな話題を呼んだ。ドビュッシーやラヴェルなどフランス近代作品も得意なレパートリー。さらに、史上もっとも上演困難ともいわれる、シュトックハウゼンの7夜におよぶオペラ《光》の全曲演奏という大業にも挑む。

 そんなパスカルがベートーヴェンの「第九」をどのように演奏するのか。作品がもつ新しさを引き出してくれるのは、コンテンポラリーを得意とする指揮者ならでは。推進力のあるテンポで、隠れがちなアイディアに次々に光をあてる演奏になるだろう。

左より:熊木夕茉 ©GODA/池田香織 ©井村重人/シヤボンガ・マクンゴ ©Jeremy Knowles/アントワン・エレラ・ロペス・ケッセル

 第4楽章には、読響との相性も抜群の新国立劇場合唱団と実力派歌手も加わる。輝かしい高音を響かせる若手ソプラノ歌手の熊木夕茉(ゆま)、音域の広さも魅力的なメゾソプラノの池田香織。そして、繊細な表現力で聴かせるテノールのシヤボンガ・マクンゴ、知的なアプローチに秀でるアントワン・へレラ=ロペス・ケッセルはパスカルとも共演が多いバスバリトン歌手だ。

 繊細にして大胆。そんなパスカルと読響の「第九」に期待は高まる。

文:鈴木淳史

読売日本交響楽団
2025年「第九」

12/18(木)、12/23(火)各日19:00 サントリーホール
12/20(土)、12/21(日)各日14:00、12/26(金)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
12/24(水)19:00 大阪/フェスティバルホール
12/27(土)14:00 横浜みなとみらいホール


出演
指揮:マキシム・パスカル
ソプラノ:熊木夕茉
メゾソプラノ:池田香織
テノール:シヤボンガ・マクンゴ
バスバリトン:アントワン・ヘレラ=ロペス・ケッセル
合唱:新国立劇場合唱団

曲目
ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 op.125「合唱付き」

問:読響チケットセンター0570-00-4390
https://yomikyo.or.jp


鈴木淳史 Atsufumi Suzuki

雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
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