
パシフィックフィルハーモニア東京の12月定期は、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」=「第九」が演目。本公演が数ある年末「第九」と異なるのは、オーケストラにとって勝負どころの「定期演奏会」の演目として取り組まれる上に、音楽監督の飯森範親が指揮する点。つまり、年末「第九」の一環ではなく、“ベートーヴェンの交響曲第9番”の本質に迫る、全力投球の1本勝負なのだ。ゆえに、稀代の名作への真摯なアプローチに、当コンビの持ち味である意気軒昂な活力が加わった、集中度の高い熱演が期待される。

もう1つ、パシフィックフィルの「第九」の特徴は、スター揃いのソリスト陣にある。今年も、伸びやかな美声を誇る旬の人気歌手・小林沙羅(ソプラノ)と西村悟(テノール)、新国立劇場の話題公演《ナターシャ》で主役の一人アラトを好唱した山下裕賀(メゾソプラノ)、欧州と日本の双方で活躍するウィーン在住の平野和(バスバリトン)が居並ぶ強力な布陣。彼らの歌声を揃って耳にできるのは他の「第九」では味わえない魅力であり、これだけでも公演に足を運ぶ甲斐がある。さらには、同楽団のクワイアと武蔵野音楽大学合唱団が合体した合唱陣も心強い要素。自前の合唱団の全力の歌唱に、飯森音楽監督が客員教授を務める武蔵野音大の学生たちのフレッシュな歌声が加わるので、音楽の方向性がブレることもなく、演奏の力や一体感がより増すに違いない。
かように一期一会の要素が揃った「第九」に浸れば、ゆく年くる年への思いと世の平和への願いを、心置きなく噛み締めることができるだろう。
文:柴田克彦
パシフィックフィルハーモニア東京
第178回 定期演奏会
2025.12/18(木)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
出演
飯森範親(指揮)
小林沙羅(ソプラノ)
山下裕賀(メゾソプラノ)
西村悟(テノール)
平野和(バスバリトン)
武蔵野音楽大学合唱団、パシフィックフィルハーモニア東京クワイア
プログラム
ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 作品125「合唱付き」
問:パシフィックフィルハーモニア東京チケットデスク03-6206-7356
https://ppt.or.jp



