大阪・関西万博でも公演開催! 「落合陽一×日本フィルプロジェクト」記者懇談会が実施

藤倉大への委嘱作品は能楽とのコラボレーション

 日本フィルハーモニー交響楽団は7月7日、セルリアンタワー能楽堂(東京・渋谷)にて「落合陽一×日本フィルプロジェクト VOL.9《null²する音楽会》」に関する記者懇談会を開催。演出・監修を務める落合陽一(メディアアーティスト・筑波大学准教授)、フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)の広上淳一の他、近藤樹(「映像の奏者」WOW ディレクター)、野村万蔵(狂言方)、馬野正基(能楽シテ方)らが登壇した。

左より:近藤樹、落合陽一、広上淳一、野村万蔵、馬野正基

 2018年に開催された、聴覚を触覚と視覚に変換するデバイスにより障がいのある人も音楽を感じて楽しめる公演「耳で聴かない音楽会®」に端を発する「落合陽一×日本フィルプロジェクト」。VOL.2以降はフルオーケストラ公演に拡大、またビジュアルデザインスタジオ「WOW(ワウ)」を「映像の奏者」として音楽の一パートに加え、AI技術を取り入れたライブ映像演出など、最新のテクノロジーを活用した「五感で感じる、身体で聴く音楽」を実現する試みを重ねてきた。近年は国内各地の伝統文化の魅力を世界に発信する活動も行っており、23年より作曲家・藤倉大の協力のもと、「承前啓後継往開来(伝統を受け継ぎながら新しい道を切り開く)」をテーマに、日本の伝統音楽・芸能をオーケストラのサウンドと映像で再解釈するプロジェクトを展開している。

 今年8月に行われるVOL.9公演は、大阪・関西万博にて落合がプロデュースするパビリオンの名前「null²(ぬるぬる)」をタイトルに掲げ、サントリーホール(8/21)と万博会場内のメインホール「シャインハット」(8/30)の2会場で開催される。

落合「“null²(ぬるぬる)”というのは、仏教用語の『空(くう)』とコンピュータ用語の『null(ヌル)』という、いずれも『何もない』を意味する2つの単語が合わさったもの。大阪・関西万博でなければ通らなかったであろう、実にふざけた名前ではありますが、『ふざけているようで真面目、真面目でいるようでちょっと抜けている』というのがポイントです。今回の音楽会では、日本がテレビという媒体を持った後に創造されてきた芸術には一体どういうものがあったのか、70年万博からの55年間を振り返りながら考えるとともに、能や狂言など古来からの文化とメディアアートがどう合わさるのか、という点を試行錯誤しています。

 このプロジェクトに取り組み始めたとき、オーケストラは『人間のほぼ意地ともいえる、生演奏をしている』点で非常に面白いと思ったのです。それと同時に、19世紀の終わりに輸入された、能楽や茶道などと比べると“時間の短い”オーケストラを『なぜこの時代に、日本でやるのか』という問いとずっと向かい合ってきました。そうした中で、実際に地域の伝統芸能を探訪するなど、長い時間をかけてコンセプトを深堀りしつつ、『演出を決めるために、我々はどういう歴史を学ばなければならないのか』ということを自問自答しながら公演を繰り返してきました。そういった面で、世の中で行われている既存のメディアアート的パフォーマンスの中では群を抜いて、フルオーケストラと映像がコラボレーションする意義を深めてきたものだと思っています」

落合陽一

 プログラムは、日本を代表する作曲家による「映像と音楽」をテーマに、團伊玖磨(「祝典行進曲」)、菅野祐悟(NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』)、久石譲(映画『天空の城ラピュタ』、懇談会にて発表)らの作品が映像演出付きで取り上げられる。さらに後半は歴史と人々を見つめ続けた「松」にフォーカス、レスピーギの「ローマの松」の他、先述の「承前啓後継往開来」シリーズ第3弾として藤倉大「Water Mirror」が委嘱・世界初演。能楽シテ方(馬野正基)、狂言方(野村万蔵他)、囃子方、地謡を迎え、それぞれ“水”と“鏡”をテーマとした「田植」(狂言)、「野守」(能)という古典作品2作をオーケストラのサウンドと映像で再解釈する。

広上「藤倉さんの新作は、音楽と映像、そして日本の伝統文化の共演による相乗効果がどういうふうになっていくのか、予想がつかないところもありますが、一つひとつを丁寧に作っていけば何か面白いことができるのではないかと。電気音ではない、“アナログ”の集まりであるオーケストラという媒体が、様々な映像、そして“null²”というコンセプトとどういう化学変化を起こすか、お客様に楽しんでいただきたいと思います」

広上淳一

 記者懇談会では、華道家・辻雄貴による舞台美術が両公演に加わることや、東京公演で実施される落合の作品展などの関連イベント(公演来場者限定、無料)の詳細などが追加発表された。オーケストラ文化の可能性を模索する本プロジェクトが、万国博覧会という一大イベントの中でどのような足跡を残すのか、見逃せない。

写真・文:編集部


落合陽一×日本フィルプロジェクト VOL.9 《null²する音楽会》

東京公演
2025.8/21(木)19:00 サントリーホール

万博公演
2025.8/30(土)15:00 大阪・関西万博会場内EXPOホール「シャインハット」

演出・監修:落合陽一
指揮:広上淳一[フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)]
映像の奏者:WOW
能楽シテ方:馬野正基
狂言方:野村万蔵、野村万之丞、野村拳之介、野村眞之介
舞台美術:辻雄貴

♪曲目
團伊玖磨:祝典行進曲
武満徹:訓練と休息の音楽 −『ホゼー・トレス』より−
林光:国盗り物語
菅野祐悟:軍師官兵衛
久石譲:天空の城ラピュタ
坂本龍一:THE LAST EMPEROR
藤倉大:「Water Mirror」[承前啓後継往開来シリーズIII、委嘱世界初演]
レスピーギ:交響詩「ローマの松」

日本フィルハーモニー交響楽団
https://japanphil.or.jp