阪田知樹が、偉大なピアニストふたりに捧げる二夜

©Ayustet

 卓越したテクニックと表現力、並外れたスタミナで、技術的にも音楽的にもヘビーかつ意義のある企画に取り組み、聴衆を魅了している阪田知樹。2025年も2つのチャレンジングな公演に臨む。

 1月に取り上げるのは、リストの協奏的作品を集めたプログラム。10代からリストに傾倒する阪田ならではの公演だ。

 「昨年ラフマニノフイヤーに全5曲の協奏曲を1日で弾いたら、また実現してほしいという声をたくさんいただきました。とはいえ次はまた新しいことをしようと、私の中心的なレパートリーであるリストから、ピアノとオーケストラのための主要4作品を一夜で弾くことにしました。

 協奏曲第1番は、4曲中、演奏した回数が突出して多い作品。リストはベートーヴェンの孫弟子で『皇帝』をたくさん弾いたそうですが、自ら協奏曲を書くとなったとき『皇帝』と同じ調性を選んだことに、孫弟子としての自覚を感じます。

 第2番は物語の要素が強く、ピアノ入りの交響詩のようで大好きです。作曲手法にも、最初にオーケストラの奏でる旋律が徐々に変化して最後は別物になるという、リストのピアノ・ソナタに通じる個性と革新性を感じます。

 その他、リストコンクール優勝時に演奏した『死の舞踏』、ハンガリー人としての愛国心が伝わる『ハンガリー幻想曲』を選びました。一夜でリストの真髄をお聴きいただきます」

 一方、3月のリサイタルはオール・ショパン。「24の前奏曲」とエチュードop.10、op.25を弾く、こちらもなかなかヘビーな内容だ。

 「自分でも、休憩を挟んでエチュードを全曲弾いて終わるくらいが普通だと思うのですが、ここに『24の前奏曲』もあわせるのがミソなんです(笑)。

 裏テーマは、リストへのオマージュ。op.10はリストに、op.25はリストの恋人、マリー・ダグー伯爵夫人に献呈されていて、リストが1週間op.10をさらったあとの演奏を聴いたショパンが、自分の作品の演奏テクニックを盗みたいくらいだと言ったエピソードは有名です。

 さまざまな表情や情緒が最高の形で現れる『24の前奏曲』は、俳句や短歌が並ぶような魅力があります。エチュードと前奏曲を合わせるこのプログラムは、大好きなコルトーなどが取り上げていて、いつかやってみたかったものが今実現します。特別なショパン・ナイトにしたいです」

 自分だけの解釈を見つけるため、資料の研究は欠かさない阪田。自宅には自筆譜やCDが溢れかえり、最近は「骨董品にはまりはじめて、さらに大変」だという。

 「骨董品といっても音楽に関するもので、リストのサインが入った楽譜やモシュコフスキの手紙など、海外で見つけたコレクションです! 実際手にすると、天才が本当に生きていたんだという実感が湧きますよね」

 今回も本番に向けて、さらに作品の魅力を掘り下げている。

 「演奏家人生の中でも大切な公演になると思います。なかなか聴けないプログラムなので、一人でも多くの方と共有できたら嬉しいです」
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2024年10月号より)

阪田知樹 オール・リスト ピアノ協奏曲演奏会
リスト~ピアノ協奏曲の夕べ

2025.1/23(木)19:00 サントリーホール
阪田知樹 ピアノ・リサイタル
新時代の旗手が魅せる、豊かに紡ぎだすショパン

2025.3/14(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
2024.9/28(土)発売
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
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