【CD】アルヴォ・ペルト:トラクトゥス /トヌ・カリユステ&タリン室内管 他

 1935年生まれのペルトの近作を集めた。大半は21世紀に入って書かれた合唱・声楽曲か、過去の合唱曲の近年の器楽への編曲版だ。アルカイックで物悲しい旋律がゆったりと流れる“ペルト調”は総じて共通しているが、モナコ大公在位50年を記念した晴れやかな「都上りの歌」やハンセン病患者に施しを与えたという「アガトン師」のように、機会音楽やドラマ性を持った作品もあり、パレットの広がりが感じられる。演奏者たちの丁寧な演奏が作品に込められた慎み深い信仰心を掬い上げ、録音会場となったエストニアの教会がそこに柔らかい残響の衣を纏わせている。空間に滲み広がるハーモニーが美しい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年3月号より)

【information】
CD『アルヴォ・ペルト:トラクトゥス /トヌ・カリユステ&タリン室内管 他』

ペルト:リトルモア・トラクトゥス(トヌ・カリユステ編)、グレーター・アンティフォナI – VII、都上りの歌、セクエンツィア、アガトン師、ジーズ・ワーズ…、来たれ創造主なる聖霊よ、天にいますわれらの父よ(トヌ・クルヴィッツ編)

トヌ・カリユステ(指揮)
タリン室内管弦楽団
エストニア・フィルハーモニー室内合唱団 他

ユニバーサル ミュージック
UCCE-2106 ¥3080(税込)