細川俊夫作品ほか新制作3演目上演
〜 新国立劇場オペラ部門 2024/25シーズン・ラインナップ発表

 新国立劇場がオペラ部門の2024/25シーズン・ラインナップ発表会を行い、大野和士芸術監督が登壇した。
 大野芸術監督7シーズン目となる新シーズンは、新制作3演目を含む9演目を上演。うち大野は2演目を指揮する。ベッリーニの《夢遊病の女》(24年10月)とロッシーニの《ウィリアム・テル》(24年11月)と、同劇場初上演かつ新制作の作品がシーズン冒頭に並ぶ、華やかな幕開けとなりそうだ。

【新制作】
●ベッリーニ《夢遊病の女》

(2024年10月、指揮:マウリツィオ・ベニーニ、演出:バルバラ・リュック)
●ロッシーニ《ウィリアム・テル》
(2024年11月、指揮:大野和士、演出・美術・衣裳:ヤニス・コッコス)
●細川俊夫《ナターシャ》(創作委嘱作品・世界初演)
(2025年8月、指揮:大野和士、演出:クリスティアン・レート)

【レパートリー】
●モーツァルト《魔笛》

(2024年12月、指揮:トマーシュ・ネトピル、演出:ウィリアム・ケントリッジ)
●ワーグナー《さまよえるオランダ人》
(2025年1月・2月、指揮:マルク・アルブレヒト、演出:マティアス・フォン・シュテークマン)
●ツェムリンスキー《フィレンツェの悲劇》/プッチーニ《ジャンニ・スキッキ》
(2025年2月、指揮:沼尻竜典、演出:粟國淳)
●ビゼー《カルメン》
(2025年2月・3月、指揮:ガエタノ・デスピノーサ、演出:アレックス・オリエ)
●プッチーニ《蝶々夫人》
(2025年5月、指揮:エンリケ・マッツォーラ、演出:栗山民也)
●ロッシーニ《セビリアの理髪師》
(2025年5月・6月、指揮:コッラード・ロヴァーリス、演出:ヨーゼフ・E.ケップリンガー)

 ベルカント・オペラの上演に力をいれる大野にとって開幕の演目には、「ハッピーエンドで輝かしいアリアが登場する」ベッリーニの《夢遊病の女》を置いた。本作は、テアトロ・レアル、バルセロナ・リセウ大劇場、パレルモ・マッシモ劇場との共同制作で、2022年12月にマドリードで初演されたプロダクション。
 指揮は同劇場でもおなじみ、イタリア・オペラの名匠マウリツィオ・ベニーニ。彼はマドリード初演時も指揮している。演出は、演劇で俳優や演出家として活躍し、昨今ではマドリード・サルスエラ劇場などでオペラ演出するなど「オペラの世界に新しい光を放ちつつある」バルバラ・リュック。アミーナ役には若手筆頭格のローザ・フェオラに、エルヴィーノ役には大スター、アントニーノ・シラグーザと期待が高まる。

 新制作2作目は、ロッシーニが30代半ば過ぎに作曲した最後のオペラ《ウィリアム・テル(ギヨーム・テル)》。大野が自ら指揮台に立つ。ロッシーニというと《セビリアの理髪師》《チェネレントラ》のように「明るく楽しい作品のイメージが強いが、本作はシリアスでロマンティックな作品」。速筆として有名だったロッシーニが約5ヵ月かけて作曲した傑作グランド・オペラで、1829年にパリで初演された。長尺のため、公演される際は一部カット上演されることが多いが、今回は「演出家などと相談して新国立劇場バージョンで上演」するという(現時点で約5時間を予定)。フランス語の原語上演は日本で初。
 演出には、2021年4月《夜鳴きうぐいす/イオランタ》に続いて登場となるヤニス・コッコス。前回はリモート演出だったが、「“大ホール初登場”」で「ウィリアム・テルの心の雄大さ、村人たちの苦しみながらも自由を希求する内面性を強く浮かび上がらせてくれるだろう」と大野も期待を寄せる。タイトルロールは本役のスペシャリストで、22年《椿姫》に続く登場となるアルバニア出身のゲジム・ミシュケタ。

 大野は、就任時より「この劇場の功績を高めていきたい」と述べてきたが、その一つの結果として、23年11月に国際共同制作されたヴェルディの《シモン・ボッカネグラ》(新制作)の名シーンが、イギリスの音楽雑誌『Opera』の表紙を飾ったことを例にあげた。今後も世界から注目される演目を手掛けていきたいと語る。
 そのうえで、その一例となりそうなのが、シーズン最後を締めくくる、新制作・世界初演の細川俊夫作曲《ナターシャ》だ。新国立劇場にとって細川作品は《松風》(2018年)に続く2作目で、日本人作曲家シリーズ第3弾となる。物語は細川が考案した内容に基づくもので、台本は国際的に高く評価されるドイツ在住の作家・詩人の多和田葉子が手掛ける。ふたりはすでに2021年にヨーロッパで子どものためのオペラを手掛けており、今回の上演はその延長線上でもちあがった話だという。
 ウクライナ人のナターシャ(ソプラノ、イルゼ・エーレンス)と日本人のアラト(アルト、山下裕賀)という二人の若者が、メフィストの孫(バリトン、クリスティアン・ミードル)の案内で現代のさまざまな地獄を旅していくという。日本語、ドイツ語、ウクライナ語ほかが使用される多言語上演となり、演出は大野と交友のあるクリスティアン・レートが手掛ける。大野は「面白いことを考える人なので、見世物としても良いものができるだろう」と語る。指揮は大野芸術監督。

 レパートリー作品では初登場の歌手が多いのが印象的だ。
 まず《魔笛》は、モーツァルトのオペラで活躍するパヴォル・ブレスリックがタミーノ役で出演。オペラ研修所出身の九嶋香奈枝、種谷典子が本公演で、それぞれパミーナ、パパゲーナで役デビューとなるのも注目だ。《さまよえるオランダ人》では、大野が長年ラブコールを送ってきたふたり、「ワーグナーを得意とする」指揮者マルク・アルブレヒト、ダーラント役を演じるバスの松位浩が初登場。オランダ人には「威圧感があって、オランダ人の不思議な性格を表すことができる」エフゲニー・ニキティンが、2012年に続きタイトルロールを歌う。


 レパートリーの拡充を目指して2019年に上演されたダブルビル公演《フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ》は、今回も沼尻竜典指揮で再演。コロナ禍の21年7月に新制作上演された《カルメン》は、演出のアレックス・オリエがふたたび来日し、感染症拡大防止策の制約を外した演出に練り直して上演される。世界的に人気を高めているサマンサ・ハンキーのカルメンに、「将来を嘱望されている」欧米で急成長中のブラジル人テノール、アタラ・アヤンがドン・ホセと、いずれも同劇場初登場だ。《蝶々夫人》ではすでに高校生のためのオペラ鑑賞教室で同役を歌っている小林厚子が本公演に登場。《セビリアの理髪師》では、脇園彩(ロジーナ)はじめ総スター陣が出演し、彼らの妙技が楽しめるだろう。

 最後に質疑応答では、大野体制のもとこれまで生み出してきた日本人作曲家シリーズ(西村朗作曲《紫苑物語》、藤倉大作曲《アルマゲドンの夢》)について、今後の展望を問われた大野。再演や海外での上演への意欲も見せながら、日本人作曲家シリーズだけでなく、「新国立劇場が世界初演の場であることも望ましい」とし、次シーズン以降もそういった可能性を持つ作品を探っていることを示唆した。

 芸術監督就任時より本来描いていた道筋が「コロナ禍で狂ってしまった」が、2024/25シーズンは新制作3演目上演と少しずつその歩みを本来の姿に戻しつつある。経済状況など劇場がかかえる問題は厳しいものだろうが、芸術監督の今後の展望をふまえ、その熱き思いが反映されたシーズンとなることを期待したい。

新国立劇場 
https://www.nntt.jac.go.jp
オペラ 2024/2025シーズンラインナップ
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