9月より日本フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者に就任したカーチュン・ウォン。2016年のグスタフ・マーラー国際指揮者コンクール優勝以降、日本を含め国際的に活動を展開している。10月13日、就任披露演奏会となる第754回東京定期演奏会(演目/マーラー:交響曲第3番)のゲネプロ直前(!)に、同氏が出席する記者懇談会が開かれた。
懇談会は日本フィル理事長の平井俊邦の挨拶からスタート。その後、同楽団の益滿行裕(企画・広報本部本部長/企画制作部部長)が今後の計画を説明、カーチュンとの出会いから長期的な展望まで、以下のように語った。
「カーチュンさんが初めて日本フィルに登場したのは2021年3月(第728回 東京定期演奏会)のことでした。当時正指揮者だった山田和樹さんが会場で演奏を聴いていたのですが、『日本フィルとカーチュンさんの相性の良さに、私は嫉妬する』と言っていたことが印象に残っています。
今後の展望につきましては、マエストロとはやはりまずマーラーを追い求めていきたいと考えております。今回演奏する第3番、来年5月の第9番。そして2026年の日本フィル創立70周年に際しては、モニュメンタルな作品に取り組んでいく予定です。
また、マーラーとは別に、フォークソング(民謡)に着目したユニークなレパートリーにも取り組んでまいります。さらに、日本フィルならではといえる、アジアの作品への取り組みも、今後一層深みを増していけたらと考えております。
カーチュンさんには、50周年にあたる2025年の九州ツアーにも登場していただく予定です。さらに、その翌年にアジアに焦点をあてた海外ツアーを行う計画も始動しつつありますので、ご注目いただければと思います」
その後、カーチュンによる挨拶。向こう5年間、蜜月の関係を築くことになる日本フィルについて、以下のように述べた。
「どんなプロジェクトに取り組むにあたっても、初回のリハーサルは非常に重要で、大変な一日になります。どう進めていくか、どんなテンポで動かしていくか、そして自分自身を含めた全体のモチベーションをどのように作っていくかを考えなければなりません。
JPO(日本フィル)の皆さんとのリハーサルは、数音、音を出しただけで全体の見通しが立ち、いつもその優秀さに感心してしまいます。さらに驚かされるのは反応の速さで、最近は“よき音楽的なパートナー”であるという信頼関係も感じられてきています」
さらに、今後積極的に取り組んでいくアジア圏の作品について。
「私の生まれ育ったシンガポールは、様々な宗教が混在している場所です。ですので日本に来た時、その文化に大きなインスピレーションを受けました。その後、伊福部昭さんをはじめとする日本人作曲家の作品に携わる機会を得ました。JPOとも伊福部さんの『シンフォニア・タプカーラ』に取り組みましたが、実は来年、首席客演指揮者を務めるドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団でこの曲を演奏することになり、『JPOに電話して、伊福部さんのパーツ(パート譜)を借りてみてはどうか』と提案しました。
今までは、アジアの楽団がヨーロッパのオーケストラから、過去の書き込みが残ったパーツを借りる、ということはしばしばありました。JPOとともに、その逆の交流ができるようになったということは、私にとって大きな誇りだと感じています」
広いスコープを持つ若き俊英とともにどんな未来を切り開いていくのか。これからの日本フィルから目が離せない。
【Information】
カーチュン・ウォン(首席指揮者)出演
今後の定期演奏会
第391回 横浜定期演奏会
2023.10/21(土)17:00 横浜みなとみらいホール
第402回 名曲コンサート
10/22(日)14:00 サントリーホール
ピアノ:亀井聖矢
第392回 横浜定期演奏会
2023.11/25(土)17:00 横浜みなとみらいホール
第248回 芸劇シリーズ
11/26(日)14:00 東京芸術劇場
ピアノ:福間洸太朗
第756回 東京定期演奏会
2023.12/8(金)19:00、12/9(土)14:00 サントリーホール
マリンバ:池上英樹
第394回 横浜定期演奏会
2024.1/20(土)17:00 横浜みなとみらいホール
第403回 名曲コンサート
1/21(日)14:00 サントリーホール
ピアノ:上原彩子
第757回 東京定期演奏会
2024.1/26(金)19:00、1/27(土)14:00 サントリーホール
ピアノ:児玉麻里、児玉桃
第760回 東京定期演奏会
2024.5/10(金)19:00、5/11(土)14:00 サントリーホール
特別演奏会
2024.5/25(土)14:00 昭和女子大学 人見記念講堂
第404回 名曲コンサート
5/26(日)14:00 サントリーホール
ピアノ:小菅優
日本フィルハーモニー交響楽団
https://japanphil.or.jp