マーク・パドモア(テノール)&ポール・ルイス(ピアノ) シューベルト 三大歌曲集全曲演奏会

“対話”が織り成す深い世界

左:マーク・パドモア 右:ポール・ルイス ©Marco Borggreve courtesy of harmonia mundi usa
左:マーク・パドモア 右:ポール・ルイス ©Marco Borggreve courtesy of harmonia mundi usa

 2011年から昨年まで2年間かけて、シューベルトが晩年の6年間に作曲した全ピアノ作品を弾くツィクルスを、王子ホールを含む世界の複数の都市で並行して完遂したポール・ルイス。今度はテノールのマーク・パドモアとともにシューベルトの三大歌曲を連続演奏する。三大歌曲、特に「冬の旅」はバリトンのレパートリーというイメージが定着しているかもしれないが、もともとはテノールの音域の作品だ。パドモアは、低い調で歌うと暗くまろやかな響きになりがちで作品本来の音色の透明さが失われると語っている。
 バロック・オペラやバッハの福音史家でも活躍するパドモアがシューベルトを歌い始めたのは40歳を過ぎてからだが、すでに優れたシューベルティアンとして世界の注目を集める存在。この二人がハルモニア・ムンディに録音した三大歌曲は高い評価を得ており、特に「冬の旅」は2010年の英グラモフォン誌の「ヴォーカル・ソロ・アワード」を受賞している現代の名盤だ。
 旋律とテキストが拮抗する、あるいは言葉のほうに重心が置かれるシューベルトの歌曲。歌詞のないピアノもまた、“語る”ことが求められている。音楽と言葉の、二人の英国人演奏者とシューベルトの、そしてもちろん歌手とピアニストの、緻密に行き交うそれぞれの“対話”に慎重に耳を傾けたい。なおツィクルス最終日の「白鳥の歌」の前には、〈遥かなる恋人に寄す〉などベートーヴェンの歌曲数曲が歌われる。
文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年10月号から)

12/4(木)19:00 「美しき水車屋の娘」
12/5(金)19:00 「冬の旅」
12/7(日)15:00 「白鳥の歌」 他
王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990 
http://www.ojihall.jp