独自の解釈で蘇る17世紀のエンターテインメント
曲が書かれた当時の楽器と奏法を用い、作品本来の姿を探る古楽器奏者たち。平成生まれの実力派プレイヤーも少なくない昨今、濱田芳通のユニークな存在感は1990年代から揺るぎない。突き抜けた歌心とパッション溢れる演奏、独特の解釈姿勢は今も新たなリピーターを生み続けている。
「“楽譜に忠実に”から一歩進んで、楽譜に“記されなかったこと”を考えるのが重要」と語る濱田。近年集中的に取り組んできた17世紀オランダの傑作曲集「笛の楽園」を披露する10月の二夜連続公演は選りすぐりの共演者名が並ぶが、この曲集には主旋律パート1段しか記されていない。
「作曲者ファン・エイク自身がリコーダーで人々を楽しませていたという記録がありますが、当時のこの手の楽譜のあり方を考えると伴奏者がいた可能性も十分あると思います」
出版された楽譜では笛以外に使える楽器の名前がいくつか挙げてあり「吹ける曲があればツィンク(初期バロック以前に広く使われた木管のコルネット)でもやりますよ」。
通常は笛1本の無伴奏で演奏される作品群だが、10月17日の公演では曲集に含まれる当時のヒットソングも声楽(ソプラノ:中山美紀、テノール:中嶋克彦)で披露、さらにイタリアから帰国後めざましい活躍をみせる上羽剛史がオルガンを受け持つ。18日はアンサンブルで主旋律を3本のリコーダーが支え、リュートの高本一郎と打楽器の和田啓も加わるが、彼らはジャンル越境型の活動で古楽シーンでも注目を集めている。
「限られた数しか現存していない当時の音楽理論書からは見えてこない点を、民俗音楽から紐解いていくやり方が古楽の世界にはあって。そういうアプローチに魅力を感じます」
有名なメロディを“どう変奏するか”が問われた17世紀当時、ファン・エイクは目が見えなかったため「彼の演奏を誰かが楽譜に書き留めてまとめたのが『笛の楽園』」と濱田は説明する。
「皆がよく知っている曲を変奏したわけで、元の曲は堅苦しくない。後のクラシック音楽の和声理論とも違う“旋法”で組み立てられた音楽で、現代人にはむしろ親しみやすいんです」
日本では江戸時代初期にあたる時期にオランダで書かれた音楽だからこその親和性も感じられるという。
「当時のオランダは、フェルメールの絵にも描かれているように東洋の物事が大好き。ファン・エイクの節回しにも少しだけ日本を感じるところがあるんですよ」
記述そのものは簡素な古い時代の楽譜に“記されなかったこと”を徹底追求していればこその、余白を埋めるのではない、余白を読み解いた結果として立ち現れてくる音楽はどのようなものだろう。濱田がじっくり突き詰めた作品解釈が今から楽しみだ。
取材・文:白沢達生
(ぶらあぼ2023年10月号より)
ヤコブ・ファン・エイク「笛の楽園」 濱田芳通
【Ⅰ】わが心の灯 〜リコーダーと声楽による〜
2023.10/17(火)
【Ⅱ】起きろ、起きろ、狩へ行くぞ! 〜リコーダー・カルテットによる〜
10/18(水)
各日19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/