気鋭のヴァイオリニスト黒川侑のデビュー盤。それがブラームスのヴァイオリン・ソナタ全曲というのだから、かなり攻めている。角がとれたまろやかな音で歌を次々に紡ぎ出していく黒川。トメ、ハネ、カスレといったフレージングも的確だ。久末航のピアノがこれまたすばらしい。両手のバランスに優れた立体的な響き。さらに2人の距離感の良さ。お互い少し距離を置きつつ、相手をしっかり見据えているような。爽やかさと甘美さを香り立て、そこにわずかに苦味が絶妙にブレンドされた第1番が絶品。第2番はより幻想的、第3番は内省的に。飾り気なし。じつに真摯なブラームスだ。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2023年9月号より)
【information】
CD『ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全集/黒川侑&久末航』
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番〜第3番
黒川侑(ヴァイオリン)
久末航(ピアノ)
アールアンフィニ
MECO-1077 ¥3300(税込)