調布国際音楽祭 2023 スペシャル座談会
鈴木優人 × 森下唯 × 松田華音

~すべての人に届く音楽を~

 6月24日から7月2日まで、9日間にわたって行われる調布国際音楽祭。地域に根ざしたイベントは、今年で11回目を迎える。新宿駅から京王線特急でわずか15分という立地も相まって、ここ数年、首都圏のクラシックファンのあいだでも存在感を高めてきた。地元出身で小学校の同級生でもある同音楽祭エグゼクティブ・プロデューサーの鈴木優人(指揮 他)とアソシエイト・プロデューサーの森下唯(ピアノ)、そして6月29日の公演に出演する松田華音(ピアノ)の3人に話を聞いた。

取材・文・構成:山田治生

―― 今年のテーマに「One Melody for All」を掲げられていますが、どのような意味が込められているのでしょうか?

鈴木 コロナ禍による、演奏会中止や分断という辛い時代を経て、ようやく平常運転に戻り、みんなで制限なく集まれるようになりました。私たちにとっては、11年目ということで、心機一転、あらためて音楽祭を考えていきたいと思い、より開かれた街の音楽祭として、メロディがみんなに届くように、「One Melodyfor All」というテーマを付けました。

森下 子どもたちを演奏会に招待したり、障がいのある方にも参加していただいたり、そういうインクルーシブな取り組みも行っています。

―― 今年のプログラムについて教えていただけますか?

鈴木 まずは、私たちのフラッグシップ・オーケストラであるフェスティバル・オーケストラによるフィナーレですね。今年は合唱を入れられるということで、(鈴木)雅明さんの指揮で「第九」を演奏することにしました。実は2020年に「第九」を予定していたのですが、中止に追い込まれたので、そのリベンジといいますか、復活を象徴するコンサートでもあります。
 スペシャルガラコンサートでは、アートとの共演ということでライブペインティングもあります。「花は咲く」に合わせて、さとうたけしさんのローラーペイントでまさに花が咲きます。

森下 ガラコンサートでは、ホワイトハンドコーラスNIPPONの手歌(しゅか)もあって、耳の不自由な方にも絵や手歌で楽しんでいただけると思います。

鈴木 そして、松田華音さんにお願いして、チャイコフスキーのピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出に」を演奏していただきます。

―― 松田さんは出演のオファーが来たときどう思いましたか?

松田 調布国際音楽祭には憧れを持っていたので、お話をいただいてうれしかったです。ピアノ三重奏のジャンルは、今回初めてなのです。ロシアでは、ヴァイオリンとのデュオや2台ピアノのレッスンを受けていましたが、トリオは初です。そして、ヴァイオリンの川久保賜紀さん、チェロの佐藤晴真さんとも初めての共演となります。

鈴木 音楽祭ならではの組み合わせということで、僕のチョイスで決めました(笑)。華音さんにはソロも弾いてもらいます。

松田 プレトニョフ編曲による「くるみ割り人形」を抜粋で弾きます。そして、同じくチャイコフスキーの「四季」から「6月」と「7月」も。

―― 松田さんは18年間ロシアにいて、ロシア文学も原語で読んでいるそうですが、チャイコフスキーの音楽をどのように感じていますか?

松田 ロシアのナショナル・ミュージックといいますか、ロシアの音色だったり、風景だったり、人々の感情の繊細な変化が描かれています。心に染み入る懐かしい響き。ロシアの人々の古き良き時代のメロディが入っていて、心に近い音楽ですね。
 「偉大な芸術家の思い出に」は、2楽章構成というのがユニークなのですが、第2楽章の最後の変奏が第3楽章のようになっているのが面白いですね。第1楽章はニコライ・ルビンシテインを失った悲しみが描かれますが、第2楽章では「人生は続いている」というポジティヴな希望もあります。でも最後はまた悲しみに戻り、ルビンシテインの存在の大きさが伝わってきます。そうした構成が素敵だと思います。

 同じようなメロディが繰り返されて、それが変化して、同じようなメロディなのに違う気持ちが伝わってくる…そういったチャイコフスキーの伝える力、想像力や表現力の豊かさ、その色使い、音使いが非常に魅力的です。

―― 鈴木さんが指揮される読売日本交響楽団の演奏会はどういうプログラムですか?

鈴木 最初にマーラーの交響曲第5番より「アダージェット」を演奏します。コロナ禍で演奏活動がすべて中止になったあと、2020年7月に読響が初めて音を出したのがこの曲でした。最初のヴィオラのドの音が鳴り始めて、ホールに響く音があまりに美しかったのを思い出します。そこから3年ということで、ぜひ、また演奏したいと思いました。
 モーツァルトのピアノ協奏曲第21番は、ジャン・チャクムルくんに弾いてもらいます。浜松国際ピアノコンクールの優勝者であるチャクムルくんは、日本が大好きなトルコ人です。僕と読響が定期演奏会でトーマス・アデスの難曲、「イン・セブン・デイズ」を演奏したとき(2021年10月)、彼が急な代役を務め、1ヵ月で仕上げてきて、読響の人々も目を丸くしていました。

森下 前半は「銀幕を彩る名曲たち」ということで映画につながりのある音楽を並べました。

―― 映画『ヴェニスに死す』と『短くも美しく燃え』ですね。

鈴木 後半は、メンデルスゾーンがスコットランドの情景を描いた交響曲第3番。これは僕が一番好きなシンフォニーなのですが、同時に一番難しいシンフォニーだと思っています。コラールのような第1楽章の出だしから心を鷲掴みにされます。第1楽章の寂寥感、不安感と第2楽章の明るさの対比も好きです。

―― バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の演奏会も指揮されますね。

鈴木 ヴァイオリンの佐藤俊介くんがヴィヴァルディ「四季」で、既存の概念にとらわれない新鮮な演奏を披露してくれると思います。バッハのチェンバロ協奏曲や管弦楽組曲も演奏します。

―― そのほかに注目の公演は?

鈴木 今年は、パシフィックフィルハーモニア東京(PPT)に登場していただき、「アナザーエデン」というゲーム音楽のコンサートをやります。そのゲームのなかで、僕と森下くんがチェンバロとピアノで、バトルをする場面もあるんですよ

―― 最後に音楽ファンに向けてメッセージをお願いします。

鈴木 カラフルなプログラムができたと思います。読響、BCJ、PPT、フェスティバル・オーケストラの個性の違いを聴き比べていただきたいです。

森下 毎年新たな試みをしていますが、クラシック音楽に慣れていない方にも聴きやすい、面白いプログラムがもりだくさんです。地元の方々に足を運んでいただきたいですね。

松田 今回、初めての調布国際音楽祭、初めてのピアノ三重奏、初めての共演者にワクワクしています!

取材・文・構成:山田治生
(ぶらあぼ2023年7月号記事より拡大版)

写真提供:ジェスク音楽文化振興会/調布市文化・コミュニティ振興財団
取材協力:サントリーホール

【Information】
調布国際音楽祭2023
2023.6/24(土)~7/2(日) 調布市グリーンホール、調布市文化会館たづくり、調布市せんがわ劇場、深大寺本堂 ほか
主催:公益財団法人調布市文化・コミュニティ振興財団、調布市

◎オープニング・コンサート ~鈴木優人 × 読響 銀幕を彩る名曲たち
6/25(日)14:00 調布市グリーンホール 大ホール
出演/鈴木優人(指揮) ジャン・チャクムル(ピアノ) 読売日本交響楽団(管弦楽)

マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調より 第4楽章「アダージェット」
モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467
メンデルスゾーン:交響曲第3番 イ短調 op.56 「スコットランド」

◎川久保賜紀×佐藤晴真×松田華音 チャイコフスキー《偉大な芸術家の思い出に》

6/29(木)14:00 調布市グリーンホール 大ホール
出演/川久保賜紀(ヴァイオリン) 佐藤晴真(チェロ) 松田華音(ピアノ)

チャイコフスキー:「くるみ割り人形」より抜粋
チャイコフスキー:なつかしい土地の思い出 op.42
チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 op.50「偉大な芸術家の思い出に」 ほか

◎調布国際音楽祭スペシャルガラコンサート One Melody for All ※完売
6/30(金)14:00 調布市グリーンホール 大ホール
出演/清塚信也(ピアノ/特別ゲスト) さとうたけし(ライブペインティング) 廣津留すみれ(ヴァイオリン) 高木慶太(チェロ) 森下唯(ピアノ) ホワイトハンドコーラスNIPPON(合唱・手歌) 鈴木優人(お話)

◎アナザーエデン オーケストラコンサート All to the Melody of Time
7/1(土)13:00 調布市グリーンホール 大ホール
出演/鈴木優人(指揮/チェンバロ) 森下唯(ピアノ) 野口明生(イーリアンパイプス 他) パシフィックフィルハーモニア東京(管弦楽) 山上毅(ゲスト/WFSサウンドチーム)

Another Eden ~時空を超える猫~
Tragic Horizon ほか

◎バッハ・コレギウム・ジャパン ヴィヴァルディ《四季》~春と夏~
7/1(土)17:00 文化会館たづくり くすのきホール
出演/鈴木優人(指揮/チェンバロ)佐藤俊介(ヴァイオリン)バッハ・コレギウム・ジャパン(管弦楽)

J.S.バッハ:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068
J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲第2番 ホ長調 BWV1053
ヴィヴァルディ:「四季」より「春」「夏」

◎バッハ・コレギウム・ジャパン ヴィヴァルディ《四季》~秋と冬~
7/2(日)11:00 文化会館たづくり くすのきホール
出演/鈴木優人(指揮/チェンバロ)佐藤俊介(ヴァイオリン)バッハ・コレギウム・ジャパン(管弦楽)

J.S.バッハ:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066
J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲第1番 ニ短調 BWV1052
ヴィヴァルディ:「四季」より「秋」「冬」

◎フェスティバル・オーケストラ ベートーヴェン「第九」
7/2(日)15:00 調布市グリーンホール 大ホール
出演/鈴木雅明(指揮) 上野星矢(フルート) 澤江衣里(ソプラノ) 清水華澄(アルト) 宮里直樹(テノール) 加耒徹(バス) フェスティバル・オーケストラ&合唱団(管弦楽・合唱)

J.S.バッハ:管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067
ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 op.125「合唱付き」

※その他の公演の詳細は音楽祭の公式ウェブサイトをご確認ください。
調布国際音楽祭2023 公式サイト
https://www.chofumusicfestival.com