鍵盤楽器のパルスはAIにいかなる刺激を与え、音楽を生み出すか?
35年前、フランクフルトの筆者の事務所にドイツの税務署員がチェックに現れ、日本製ファックス機に目を止めた。「これにドイツ語の書類を入れると、東京では日本語の文章になるのですか?」。当時は奇想天外と呆れたが、今や外国語のデータを翻訳ソフトにそのまま貼れば、かなり正確な日本語に変換される。妄想は案外、現実となりうる。
小川加恵は東京藝術大学とデン・ハーグ王立音楽院で学び、2011年の第16回ファン・ワセナール国際古楽コンクール(オランダ)で優勝したフォルテピアノ奏者。出身地・岐阜県のサラマンカホールで5月21日、メディアアーティストの落合陽一とともに開く「計算機と古楽器で奏でる音楽会−未知への追憶−」にも、そうした「瓢箪から駒」風、何が起こるかわからない雰囲気がもうもうと漂う。
アコースティック楽器の曲目からして、フォルテピアノより少し前の鍵盤楽器であるチェンバロのためのロワイエ「スキタイ人の行進」から、後の時代のピアノで書かれたショパン、シューマン、現代の藤倉大までの幅広いスペクトラムを設定。モーツァルト「音楽のサイコロ遊び」にちなんで聴衆全員にサイコロを渡し、客席とのコラボレーションを通じた“作曲”にも臨む。
落合はAI(人工知能)を駆使した新作、交響詩「長良川」(仮題)の世界初演を予定。
「長良川というより、鮎そのものを学習素材にして“鮎っぽい”音楽にしたい。計算機と古楽器の組み合わせで、良いハーモニーのクラシック音楽をつくれるかどうか、楽しみです」(落合)
文:池田卓夫
(ぶらあぼ2023年5月号より)
2023.5/21(日)15:00 岐阜/サラマンカホール
問:サラマンカホールチケットセンター058-277-1110
https://salamanca.gifu-fureai.jp