近年、快調ぶりを増しているノット&東響のマーラー第5番。まず、たっぷりとした鳴りに耳を奪われる。トゥッティではスピーカー越しに衝撃波までが伝わってきそうな勢いだ。堂々と構築した両端楽章に加え、第2楽章では各楽器が交わす悲鳴にも似た壮絶なこだま、スケルツォでは静と動の鮮やかなコントラスト、アダージェットはじっくりと歌い込んだ濃厚なロマンなど、随所ではっとさせられる瞬間があった。隙がなく精度が高い硬質の演奏を聴かせてきた両者だが、そこにより激しい情感の動きやヒューマンな温もりが加わってきたように感じる。長年の協業で培われた信頼関係が生んだ佳演だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年4月号より)
【information】
SACD『マーラー:交響曲第5番/ジョナサン・ノット&東響』
マーラー:交響曲第5番
ジョナサン・ノット(指揮)
東京交響楽団
収録:2022年7月、サントリーホール 他(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00808 ¥3520(税込)