サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン

 毎年6月の恒例となった室内楽の祭典「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)」。今年13回目を迎えるCMGは、同ホール「ブルーローズ」で6月3日から18日までの16日間、全21公演が開催される。海外アーティストも昨年以上に参加する予定で、より明るさの増す「庭」を楽しめるに違いない。

文:林 昌英

◆エリアス弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル 

 室内楽曲の最高峰、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全16曲を一つの団体が完奏する、CMGの名物シリーズ「ベートーヴェン・サイクル」。今年は1998年に結成された、イギリスの「エリアス弦楽四重奏団」が登場する。室内楽の殿堂ウィグモアホールでベートーヴェン弦楽四重奏曲の全曲演奏会と録音を行うなど、欧州を中心に活躍してきた団体で、今回が初来日となる。音源で聴く限りでは、丹念に響きと音色を作ってじっくりと歌い込みながら、ときに鋭く切り込むことも厭わない、懐の深い演奏スタイルのようだ。6回のプログラムは初・中・後期のバランスが考えられた組み合わせだが、第13番は2種類の終楽章(当初の「大フーガ」と後に作られたアレグロの楽章)で2回演奏するのがユニーク。結成25年の実力派によるベートーヴェン“全17曲”、大いに楽しみたい。

◆クロンベルク・アカデミー日本ツアー

 大きな注目を集めるのが「クロンベルク・アカデミー」の初来日公演。長年にわたり弦楽器の名手を輩出し続けてきたドイツの名門アカデミーとして知られ、2022年度の高松宮殿下記念世界文化賞「若手芸術家奨励制度」にも選出された。今回は「クロンベルク」の具体的な指導法や音楽作りの成果を、日本で直接体験できる貴重な機会となる。

 もちろん、背景は全部抜きにしても、最高の室内楽演奏を体験できる好機であることは間違いない。指導者も卒業生も世界的名手が多数並ぶアカデミーだけに、今回の出演者も豪華。アカデミー講師のミハエラ・マルティン(ヴァイオリン)、今井信子(ヴィオラ、6/17)、フランス・ヘルメルソン(チェロ)。卒業生はヴァイオリンの大江馨と毛利文香、チェロの宮田大(6/15)。さらに、昨年の東京国際ヴィオラ・コンクール優勝のハヤン・パクをはじめとする在校生(ハヤン・パク、サラ・フェランデス(以上ヴィオラ)、アレクサンダー・ヴァレンベルク(チェロ)、ユリアス・アザル(ピアノ))も4名参加する。2回の公演はシェーンベルク「浄められた夜」ほか(6/15)、ブラームス「弦楽六重奏曲第2番」ほか(6/17)といった室内楽の傑作が並び、最先端を走る世界的名手たちが名演を披露する。

◆こだわりと発見のステージ

 考え抜かれた演目もCMGならでは。「ディスカバリー!ナイト」と題された公演(6/13)では、ベートーヴェンとショスタコーヴィチの「交響曲」が室内楽で聴ける。前者は、ピアノ北村朋幹、ヴァイオリン郷古廉、チェロ横坂源のピアノ三重奏による「第2番」。後者はピアノ三重奏+13の打楽器(奏者は3人)による、最晩年の不思議な大作「第15番」。いずれも名作の新しい一面に触れられそうで、期待が高まる。

 「青春ブラームス」(6/5)、「壮年ブラームス」(6/16)と題された公演も興味深い。前者は「プレシャス 1pm」でヴァイオリン中村太地らによる初期の楽曲を。後者はエラール製のフォルテピアノの音色を味わう「エラールの夕べ」で、ヴァイオリン佐藤俊介、チェロ鈴木秀美、フォルテピアノのスーアン・チャイの3人が、チェロ、ヴァイオリン、トリオの名曲が並ぶ「作品99〜101」を奏でる。

◆CMGを支える名匠たちと期待の俊才たち

 CMGを代表するアーティストであるチェロの堤剛、そしてハープの吉野直子は、「CMGオープニング」「プレシャス 1pm」に出演。ホルンの世界的奏者ラデク・バボラークは、「個展’23」(6/11)にて木管五重奏などで真髄を示す。人気のピアノ三重奏団「葵トリオ」は7年プロジェクト第3回(6/9)でベートーヴェン、ドビュッシー、大作のラフマニノフ第2番に挑み、会場を熱く盛り上げる。彼らは入門コンサート「室内楽のしおり」(6/11)にも登場、トークを交えて多様な編成の名品を紹介する。

 同ホールの室内楽アカデミー・フェロー(受講生)がその成果を披露する演奏会も、ぜひとも注目してほしい(6/10、6/17)。かつて「クァルテット・インテグラ」なども出演した場で、今回も未来に羽ばたく俊才たちを見つけたい。「CMGフィナーレ」(6/18)は、期間中に出演した前記の巨匠たちからフェローまでが共にステージを作り上げる饗宴で、アンサンブルの喜びを歌い上げる。

【information】
サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン【一部配信あり】
2023.6/3(土)〜6/18(日) サントリーホール ブルーローズ(小)

【CMGオープニング 堤 剛プロデュース 2023】 
6/3(土)13:00
堤 剛(チェロ)、吉野直子(ハープ)、須関裕子(ピアノ)

【エリアス弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル】
Ⅰ. 6/3(土) Ⅱ. 6/5(月) Ⅲ. 6/7(水) Ⅳ. 6/10(土) Ⅴ. 6/12(月) Ⅵ. 6/14(水)各日19:00

【プレシャス 1pm】 
Vol. 1 青春ブラームス 
6/5(月)13:00〜14:00
中村太地(ヴァイオリン)、辻本 玲(チェロ)、佐藤卓史(ピアノ)※第31回青山音楽賞バロックザール賞受賞団体
Vol. 2 ハープと笙の特別な出会い 
6/8(木)13:00〜14:00
吉野直子(ハープ)、宮田まゆみ(笙)
Vol. 3 ロシアのチェロ・ソナタ 
6/14(水)13:00〜14:00
小山実稚恵(ピアノ)、堤 剛(チェロ)

【葵トリオ ピアノ三重奏の世界 〜7年プロジェクト第3回】 
6/9(金)19:00 

【ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会】 
Ⅰ. 6/10(土) Ⅱ. 6/17(土) 各日11:00
カルテット・インフィニート、ポルテュス トリオ 他  

【室内楽のしおり 〜葵トリオとホープたち】 
6/11(日)11:00〜12:15
葵トリオ、サントリーホール室内楽アカデミー選抜フェロー

【ラデク・バボラークの個展’23 〜若き音楽仲間とともに】
6/11(日)18:00
ラデク・バボラーク(ホルン)、瀧本実里(フルート)、荒木奏美(オーボエ)、アレッサンドロ・ベヴェラリ(クラリネット)、ミハエラ・シュパチュコヴァー(ファゴット)、サントリーホール室内楽アカデミー選抜フェロー

【ディスカバリー!ナイト 〜室内楽なシンフォニー】
6/13(火)19:00
北村朋幹(ピアノ)、郷古 廉(ヴァイオリン)、横坂 源(チェロ)、清水 太、西久保友広、藤井里佳(以上打楽器)

【クロンベルク・アカデミー日本ツアー 〜世界の若きソリストと第一線の指導者たち】 
6/15(木)、6/17(土)各日19:00 
[講師]ミハエラ・マルティン(ヴァイオリン)、フランス・ヘルメルソン(チェロ)、今井信子(ヴィオラ、6/17のみ)
[卒業生]大江 馨、毛利文香(以上ヴァイオリン)、宮田 大(チェロ、6/15のみ) [在校生]ハヤン・パク、サラ・フェランデス(以上ヴィオラ)、アレクサンダー・ヴァレンベルク(チェロ)、ユリアス・アザル(ピアノ)

【エラールの夕べ 〜壮年ブラームス】 
6/16(金)19:00
佐藤俊介(ヴァイオリン)、鈴木秀美(チェロ)、スーアン・チャイ(フォルテピアノ*)
*使用楽器:エラール(1867年製/サントリーホール所蔵)

【CMGフィナーレ 2023】 
6/18(日)14:00
原田幸一郎(ヴァイオリン)、磯村和英(ヴィオラ)、毛利伯郎(チェロ)、クロンベルク・アカデミー 他

問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017(10:00〜18:00、休館日を除く) 
suntoryhall.pia.jp

※「CMGオンライン 2023」として5公演を有料ライブ配信いたします(リピート配信あり)。
5/9(火)10:00発売。視聴券の購入については上記ウェブサイトでご確認ください。