時代を超えた“夢”の物語が互いに連関し、共鳴する
フルートの魅力を「儚さ」「繊細さ」と語る東京フィルの下払桐子が、東京オペラシティの「B→C」に出演する。この企画の軸となるバッハと同時代作品に加え、他の楽器と違ってフルートでは挑戦的ともいえるロマン派のコンサートピースをメインに据えたプログラム。「夢」をテーマにした考え抜かれた選曲が並ぶ。
例えば(アメリカフルート界の大御所だった)デラニー作品と、武満徹の遺作はどちらも無伴奏かつ同じテンポ、同じ音の動き「ラ—レ♯(ミ♭)」で始まるのだ。続く一柳慧の無伴奏作品も「ラ—ミ—ミ♭」で始まったりと、無意識のうちにまるで眠るたびに少しずつ異なる夢をみているかのような感覚に陥るはず。さらに驚くべきことに、バッハの通奏低音付きソナタ ホ短調のバスが、前述したデラニー作品にあらわれたり、武満作品からにじみ出るイ短調の響きがバッハの無伴奏パルティータに繋がったりと、夢をみているかのような感覚が現代曲以外にも侵食していくのだ(しかも下払にとって初めての古楽器フラウト・トラヴェルソでの公開演奏となるという!)。それらをフランス近代のアンドレ・カプレによる「夢」「小さなワルツ」と、池辺晋一郎の無伴奏作品「フルートは眠り、そして夢見る」で挟み込んだ上で、ラストはフランクや若き日のR.シュトラウスを想起させる隠れた名曲、フリューリンクの「幻想曲」で締め括られる。現代曲が苦手でも楽しめる内容なので、普段「B→C」に足を運ばない方にもお薦めだ。
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2023年3月号より)
2023.4/4(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp