エリアフ・インバル(指揮) 東京都交響楽団

23年ぶりに披露される「ロマンティック」第1稿

エリアフ・インバル (c)堀田力丸

 桁外れの規模によって作曲時にはなかなか理解されなかったブルックナーの交響曲。初演時から評判の良かった第4交響曲「ロマンティック」ですら、初稿を大幅改訂することで演奏にこぎつけた経緯がある。

 では、改訂前の「ロマンティック」はどういう姿をしていたのだろうか。この点に早くから関心を寄せていたのがインバルだ。フランクフルト放送響と80年代に録音したブルックナー全集では、整えられた後の版にはない「ロマンティック」作曲当初の生々しい想像力を、切れ味よい演奏で世に知らしめた。

 今回の定期・都響スペシャルでは、そんなインバルがこのノヴァーク版第1稿を取り上げる。初めて聴く方は、慣れ親しんだ「ロマンティック」との違いに、他の彼の交響曲以上に衝撃を受けるはずだ。完全に書き直されたスケルツォのほかにも、ブルックナーは攻めまくっており、その複雑さ、尖りぶりはまさに当時の前衛というにふさわしい。

 この曲の前にウェーベルン「管弦楽のための6つの小品」をぶつけてきたセンスも心憎い。師シェーンベルクに捧げられた本曲は、新音楽の精神を極度に簡潔な音楽へと凝縮させている。調性や伝統的な管弦楽法から解放された無重力空間で、旋律はぽつりぽつりとしたつぶやきに変容して妖しく煌めき、ほのかな抒情を香らせる。

 巨大な管弦楽を用いて荒ぶる想像力を縦横無尽に働かせたブルックナー。そして究極の禁欲主義の向こうに新しい世界を創造したウェーベルン。インバル&都響が二つの極を鋭く対比させる。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年11月号より)

第962回 定期演奏会Bシリーズ 
2022.12/13(火)19:00 サントリーホール
都響スペシャル 
12/14(水)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:都響ガイド0570-056-057 
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