森田啓佑(チェロ)

若き俊英の熱演をゆったりと愉しむ

(c)Eiji Yamamoto

 「リラックスして聴くのは音楽の醍醐味のひとつ。発想が面白いし、音楽の魅力をそのまま具現化したようなコンサートですね。寝ていただいてもOKです」

 12月、Hakuju Hall恒例の「リクライニング・コンサート」に登場する。休憩なしの1時間。前半がベートーヴェンとシューマン、後半にファリャ。

 試練と向き合い、打ち勝って成長するベートーヴェンの生き方に惹かれるという。

 「それがそのまま曲に出ている。音楽に人生が凝縮されていることに一番共感します。『《魔笛》の主題による7つの変奏曲』は、もとがオペラなので、いろんなキャラクターがどんどん変わっていきます。留学してドイツ語を話すようになって、音の出し方や抜き方が変わったかなと感じます」

 シューマンの「幻想小曲集 op.73」は初挑戦。

 「クラリネットが原曲なので、やっぱり弓じゃない感じがするんです。居心地悪くならずに、どう繋げるか。シューマンは心の葛藤が曲に表れていて、『これはダメだ。』『あ、こっちもダメ。』と、すぐに『。』が付いて長い文章にならない。でも意味は繋がっている。それがシューマンの魅力のひとつだと思います」

 ファリャは「7つのスペイン民謡」(マレシャル編)と「火祭りの踊り」。スペイン音楽は自分にフィットすると感じている。

 「自分の性格は全然スペインっぽくないんですけど(笑)。あのリズムがすごく親しく感じられる。心が落ち着くような気がします」

 25歳。世界的にも高水準の日本のチェロ界を牽引する若手世代の一人だ。佐藤晴真や水野優也とは同学年。

 「同級生に彼らがいるのは本当に恵まれている。刺激をたくさんもらっています。水野は高校の時から同じクラスで出席番号が僕のひとつ前。お互い留学して、会うのは前より減りましたが、たまに近況を聞きあったりしています」

 チェロは3歳から。しかし中学までは音楽よりもサッカーに打ち込んでいた。都大会準優勝チームの副キャプテンだったというから結構なレベルだ。ポジションはセンターバック。

 「最近は留学しているドイツのザールブリュッケンで、週1回ぐらい、いろんな国の仲間たちと楽しみながらやってます。ドイツ人は身体が大きいから、W杯ではどうやったら勝てるか」

 と、サッカー熱もまだ冷めない模様。もしかしたら日本代表は有力な戦力を失ったかもしれないが、世界は才能豊かなチェリストを得た。飾らず率直な、しかし熱い話しぶりが、そのまま音や音楽にも表れている大器。聴き逃せない。共演のピアノに津田裕也。
取材・文:宮本明
(ぶらあぼ2022年10月号より)

第168回 リクライニング・コンサート 森田啓佑 チェロ・リサイタル
2022.12/14(水)15:00 19:30 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 
https://hakujuhall.jp