野村萬斎(狂言師)

金沢の地で6年ぶりに舞うボレロ

 ラヴェルのおなじみの楽曲に『三番叟』の厳粛な祝祭性を融合させたユニークさで、2011年の初演以来、不動の人気を誇る野村萬斎の独舞『MANSAIボレロ』。石川県立音楽堂邦楽監督就任1周年を記念した「MANSAI CREATION BOX 〜萬斎のおもちゃ箱〜」(演奏:井上道義指揮、オーケストラ・アンサンブル金沢)を前に、その誕生の経緯と今回の趣向について語ってもらった。

——『ボレロ』と『三番叟』が結びついたきっかけは。

 「まず、中学生くらいの時だったと思いますが、うちの父(野村万作)がモーリス・ベジャール振付の『ボレロ』を観て、『三番叟』との近似を感じたらしく、自分もやりたいというようなことを言っていたのが、頭に残っていたんです。その後、私自身が『三番叟』をやるようになって改めて、メロディを繰り返す点と地を踏みしめる振りが似ているだけでなく、むしろベジャールの方が、さまざまな日本文化からヒントを得てこの舞踊を創ったのではないかと感じ、その逆輸入として『ボレロ』をやってみることを考えるようになりました。具体的には2011年3月、たまたま東日本大震災の数日後でしたが、芸術監督をしていた世田谷パブリックシアターの『MANSAI 解体新書』というトーク&パフォーマンスのゲストに、ベジャールの『ボレロ』も踊っていらした首藤康之さんをお招きし、首藤さんには『三番叟』の装束と音楽で、僕は洋服で『ボレロ』を舞ってみる、というトライアルをして確かめ、その年の12月に初演にこぎ着けました」

—— 西洋音楽と邦楽との相違に苦労されたのでは。

 「オーケストラの演奏は、スネアドラムの単音から次第に重層的に厚みが加わり、スピード感とボリューム感でエネルギーが増してゆくので、それにただ身を任せるだけの踊りになってしまわないよう、多少なりともストーリー性をもたせることを考えました。『三番叟』は、本来は五穀豊穣などを祈って舞い踊るものですが、震災直後だったことから『再生』という意味を込めることにし、折口信夫の『死者の書』で埋葬された男が覚醒する際のイメージや、天照大御神の岩戸隠れの神話など、さまざまなアイディアを盛り込んで、新たな神楽を創ることを目指しました」

—— 初演以来、装束や装置にもいくつかバージョンができましたが今回は。

 「フェニックスが織り込まれた白い狩衣に、赤い袴を履こうと思います。ラヴェルの『ボレロ』はメジャー系とマイナー系2種類の旋律による構成なので、それに合わせて男性性(白)と女性性(赤)の両性を持ち、瞬時に性を入れ替えながら表現するようなイメージですね。オーケストラのみなさんに囲まれることで、まさしくベジャールの『ボレロ』におけるメロディ(ソロ)とリズム(群舞)のような構造ができて、舞手自身の生な感性が発動され、私の身体と音楽との熱いセッションという側面が強調されると思います」

—— 井上道義さん指揮で舞うのは、2回目になりますね。

 「井上さんは非常に楽しく、かつ繊細なかたです。コンサートホールという空間において、音楽だけでなくあらゆる見え方、見せ方を意識し、全方向にアンテナを巡らせている指揮者だと思います。実に多角的に『音』というものをとらえていて、演出家的な側面も多々お持ちなので、私にとっては手強い存在でもあります。生来のリーディングパフォーマー気質で、前回の『ボレロ』の際は、ときどき客席を向いて指揮棒を振っていましたからね(笑)。今回は、武満徹さんの『ワルツ』(映画『他人の顔』より)でもご一緒しますので、そんな井上さんと私のぶつかり合いも、より楽しんでいただけると思います」
取材・文:伊達なつめ
(ぶらあぼ2022年10月号より)

MANSAI CREATION BOX ~萬斎のおもちゃ箱~
2022.10/16(日)14:00 石川県立音楽堂 コンサートホール
問:石川県立音楽堂チケットボックス076-232-8632
https://ongakudo.jp