“ロマン派ガラ・コンサート”で希望や夢を分かち合う
及川浩治のコンサート「名曲の花束」は今年で6年目を迎える。名作の選択とその組み合わせによって、毎回テーマ性を帯びたリサイタルとなっている。
「今回は、互いにリスペクトし合ったロマン派の作曲家たちに焦点を当てます。ピアノ曲のみならず、リスト編曲の歌曲やオーケストラ作品もお届けします。リストは初めて“リサイタル”という形態でコンサートを行ったピアニストです。彼の公演スタイルに立ち返ることも意識して、 “ロマン派ガラ・コンサート”にしようと考えました」
シューマンの「献呈」や「春の夜」、シューベルトの「魔王」「アヴェ・マリア」といった声楽曲は広く愛される名旋律だが、リスト編のピアノ版は音数が多く技巧的だ。
「『アヴェ・マリア』などは3段譜で書かれており、両手で中音域の主旋律を弾きながら、高音域・低音域で豊かな伴奏を奏でる。そんなリストの書法は、メロディーを浮き立たせるのが難しいですが、いかに声楽のように響かせるかが肝心です。ピアノという楽器は音が出た瞬間から減衰してしまうという弱点があります。しかし、音と音との関係性やバランス、調性の移ろいなどを意識することで、声や弦楽器や管楽器を思わせ、音があたかも膨らみながら繋がっているかのように表現することができます。またピアノは、人の声より音域が広く、一人でオーケストラのようにハーモニーが作れます。そうした強みを最大限に活かして、作品の魅力をお届けしたいですね」
曲の持ち味を伝えようと、インタビュー中も時に朗々と歌って聞かせてくれる及川。心は常に歌で満ちている。
「僕は学生時代からよく歌の伴奏をやってきたし、自分でも歌うのが大好きなんです。かつてマリア・カラス・コンクールで演奏した際、弾きながら自然と歌っていたらしい。お世話になった審査委員長のレフ・ヴラセンコ先生からは『ちょっと声が大きかったよ』と言われてしまいました(笑)」
曲順には、及川の伝えたい今の思いが込められている。
「今は不安の多い時代です。しかしショパンやリストたちの時代にも、やはり戦争や疫病はあった。人生にはさまざまなシーンがあります。『トロイメライ』のような夢と優しさに満ちた曲で幕を開け、中盤には『荒野の狩』や『死の舞踏』のようにおどろおどろしい作品も配置します。祈りの『アヴェ・マリア』を経て、おしまいは包容力のある《タンホイザー》序曲で、希望を抱き、新たな始まりを感じていただきたいです」
名曲には、苦しみ、悲しみ、希望、夢を分かち合おうとする力があると語る及川。その力を「花束」から存分に受け取りたい。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2022年10月号より)
及川浩治 ピアノ・リサイタル 名曲の花束 〜ロマン派〜
2022.10/10(月・祝)14:00 サントリーホール
問:チケットスペース03-3234-9999
https://www.ints.co.jp
他公演
10/1(土) 静岡/青嶋ホール(054-253-6480)
10/16(日) 大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)