『バベル BABEL (words)』

オリバー賞と最優秀振付ブノワ賞を受賞した話題作!

(C)Koen Broos
(C)Koen Broos

 本作の振付は、いま世界でも最も人気のある振付家の一人、ベルギーのシディ・ラルビ・シェルカウイである。アクラム・カーンとのデュオ『ゼロ度』や、手塚治虫をテーマにした『テ ヅカ TeZukA』など、これまでも来日公演は多く、幅広くファンを獲得している。この作品は札幌国際芸術祭2014のゲストディレクターである坂本龍一が自ら選んだことでも話題になった。
 シェルカウイ作品の特徴は、本人の卓越した身体能力に加え、美しくも意表を突く優れた美術と演出、そして胸に染み渡るように響く歌など、五感をフルに刺激する点である。共同振付のダミアン・ジャレはシェルカウイの昔からの盟友で、身体の利き方も素晴らしく、息の合った演出ぶりが楽しみだ。
 シェルカウイ自身はここ数年、少林寺の僧侶やスペイン舞踊とコラボレーションしたり、様々な国の伝統文化と関わりの深い作品をいくつも創ってきた。そういう流れで見るとこの『BABEL(words)』は、「人の言葉が分かれ、多様な文化を生み出す大本の話」だといえる。本作に様々な国籍の老若男女が登場するのも、さながら世界の縮図のようだ。彼らが力を合わせ、まるでひとつの生命体のように動くシーンは見物である。
 舞台装置にはビジュアル・アーティストのアントニー・ゴームリーによる5つの大きな直方体のフレームが使われる。これが様々に移動しては組み合わされ、時に山のように、あるいは都市のように、そして塔であり個人のパーソナルスペースのように、闊達に空間を切り取っていく。
 タイトルはいうまでもなく、旧約聖書の創世記に出てくる「バベルの塔」にちなんでいる。神に挑む高い塔を建設しようとした人々が神の怒りに触れ、互いの言葉を理解できなくされてしまう。雷や洪水といったハード面の罰ではなく、言葉(words)というソフト面を封じられただけで、それまで一丸となって頑張っていた人々は世界中に離散してしまい、塔の建設は放棄されてしまうのだ。
 平和を願わぬ者はいないのに、なぜ世界は争いに満ちているのか…… 言葉によって人は理解し合うことができるのだが、同時に言葉によってこそ憎しみや不信感が醸成されていく。諸刃の剣なのだ。それでも人は信じる努力をあきらめることはない。ダンスをもってそこに斬り込む2人の共作を、ぜひとも目撃してほしい。
文:乗越たかお
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年7月号から)

8/29(金)〜8/31(日) 東急シアターオーブ
問:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337 
http://www.tbs.co.jp/event/babel2014/