様々なコンクールで実績をあげ、現在は東京藝大大学院に在籍する俊英のCD第2弾にして、今年生誕150年を迎えたスクリャービンのピアノ・ソナタ全集の第1弾。「彼の音楽の世界に魅せられ、虜になっています」という自身の弁を実証するかのような、シンパシーに充ちた快演が展開されている。テクニックは申し分ないし、透明感のある音色が何より魅力的。クリアな表現の中にも詩情が漂い、神秘的かつダイナミックな変化に耳を奪われる。なかでもソナタ第4番は聴きもの。第5番終盤の凄絶なエネルギーにも圧倒される。“音風景の変幻”が見事な、一聴の価値ある一枚。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年5月号より)
【information】
SACD『スクリャービン・リサイタル I ピアノ・ソナタ全集 Vol.1/尾城杏奈』
スクリャービン:2つの詩曲、ワルツ 変イ長調、ピアノ・ソナタ第4番、同第5番、同第6番、同第7番「白ミサ」、同第9番「黒ミサ」
尾城杏奈(ピアノ)
オクタヴィア・レコード
OVCT-00196 ¥3520(税込)