びわ湖ホール声楽アンサンブル「日本合唱音楽の古典」Ⅵ 第73回定期公演 & 東京公演vol.12 & 米原公演vol.1

時代を越えて愛される合唱曲を注目の新作とともに

びわ湖ホール声楽アンサンブル

 びわ湖ホール声楽アンサンブルの重要な取り組みの一つに日本の合唱作品がある。その中でもびわ湖ホール芸術監督・沼尻竜典の指揮する「日本合唱音楽の古典」は人気のシリーズであり、今回で6回目となる。もはや文字通り“古典”といっていい三善晃と大中恩の作品を中心に構成される。これまで、本拠地のびわ湖ホールと東京で公演を行ってきた同アンサンブルだが、今年から米原でも舞台に立つことになった。指揮は沼尻と大川修司(米原のみ)が務める。

 今回の注目すべき点の一つは、何と言っても寺嶋陸也の新作が初演されることである。寺嶋陸也とびわ湖ホール声楽アンサンブルは、2009年に林光のオペラ《森は生きている》で寺嶋がピアノを担当して以来、毎年のように指揮、編曲、ピアノで共演してきた。「今回新しい合唱曲を作曲する機会をいただいたことを嬉しく思っています」とコメントしている。新作「年を忘れた少年の歌」は、滋賀県在住の詩人・森哲弥の詩集『少年百科箱日記』の中から寺嶋自身が選んだ5作に付曲された。曲のタイトルは詩集の別の詩からとられている。寺嶋は「大きなスケールの時間と空間、そして自然の息吹と生命を、優しくあたたかい言葉で表現した詩に出会えたことは、とても幸せなことでした」と詩から受けた印象を述べている。

左より:沼尻竜典 ©RYOICHI ARATANI/大川修司/寺嶋陸也

 寺嶋と指揮者の沼尻は幼なじみで、「中学生の頃までは(沼尻さんと)よく一緒にピアノを弾いたり、作曲したりして遊びました。私たちが少年だった頃のことも思い出しながら、演奏会を楽しみにしています」とも語っている。どんな少年の心が新作で歌われることか期待は高まる。

 子どもの心というのは、今回の演奏会の重要なコンセプトでもある。三善晃「小さな目」は、「子どもの詩による13の歌」の副題通り、子どもの詩に作曲された。1963年、作曲者30歳の時の作品で、素朴な詩に付けられた瑞々しい音楽が魅力的だ。友の不在を嘆く〈ひろちゃん〉やベートーヴェンのパロディが響く〈みそしる〉といった印象的な曲もあるが、〈先生のネックレス〉〈やけど〉〈けんか〉など、ウィットに富んだ楽しい歌も多い。

 大中恩の「こどものうた」ほど、幅広く愛唱されているものはないだろう。代表作の〈サッちゃん〉〈いぬのおまわりさん〉〈おなかのへるうた〉を知らない人はいないはず。このようにやさしく楽しい歌を才人沼尻竜典がどのように味付けするか、技術力の高いびわ湖ホール声楽アンサンブルがどのように鳴り響かせてくれるか、興味をひかれるところだ。

 プログラムの最後をもう一度三善作品で締めくくるのは、沼尻にとって作曲の師である三善へのリスペクトの表れだろう。「唱歌の四季」は文部省唱歌の名作の編曲である。三善の編曲は、奇を衒ったところはなく、原曲の持ち味を生かしながら、さりげない転調やオブリガートをつけ、美しいピアノ伴奏を加えて、洗練された合唱曲に仕上げている。大声をあげて歌った唱歌をこのように美しい合唱で聴くのもいいものだ。子どもの心に焦点をあてたプログラムで、幼い頃に味わった小さな感動や悲喜こもごもの出来事を思い起こさせてくれるに違いない。楽しみな演奏会だ。
文:横原千史
(ぶらあぼ2021年10月号より)

2021.10/30(土)14:00 滋賀県立文化産業交流会館 小劇場
11/6(土)14:00 びわ湖ホール 大ホール
11/7(日)14:00 東京文化会館 小ホール

びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136 
https://www.biwako-hall.or.jp/