笠井 叡『冬の旅』

初のセルフコレオグラフィーでシューベルトを踊る

『日本国憲法を踊る』より 写真:伊藤 孝
『日本国憲法を踊る』より 写真:伊藤 孝
 フランツ・シューベルトが死の前年に発表した連作歌曲集『冬の旅』全24曲を、たった1人で踊る! 挑むのは舞踏家・振付家の笠井叡。1960年代初頭にデビューし、世界的舞踏家・大野一雄や暗黒舞踏の創始者・土方巽に学んだ後、独自の舞踊宇宙を追求してきた。「舞踏のニジンスキー」と称され一世を風靡するも人智学の研究のため渡独し、帰国後も長らく舞踊公演を行わなかったため伝説的存在であったが、21世紀に入ってからは毎年のように話題作を世に問う。バレエ界の異才ファルフ・ルジマトフや作曲家・ピアニストの高橋悠治との協働作業も反響を呼んだ。
 笠井のダンスの特徴として、ソロであっても群舞作品であっても、自身の踊りを即興で通すことが挙げられる。古希を過ぎているが、大胆で奔放な踊りに接する限り、肉体も精神も若々しい。しかし、今回の『冬の旅』は初のセルフコレオグラフィー、すなわち自身に振付を行うという新たな挑戦だ。「即興を裏返しにしたような振付作品であれば、と願っている」と抱負を語る。
 即興を裏返しに!?無論、単に即興で創った動きを固め連ねて踊るだけではあるまい。笠井は他の踊り手に振り付けた際に、踊り手の個性を鮮やかに引き出すし、音楽性も豊かである。その鮮やかなマジックが自身と向き合った時に、どう作用するのだろうか。深遠で甘美、哀切極まりない音楽に身を委ねつつ、新たな伝説の誕生をしかと見届けたい。
文:高橋森彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年2月号から)

2/12(金)〜2/14(日) 東京芸術劇場 シアターイースト
問:ハイウッド03-3320-7217 
http://www.akirakasai.com