東京・春・音楽祭 —東京のオペラの森2016—


 2016年の『東京・春・音楽祭』の概要が発表された。今や春の上野の風物詩となった「東京春祭」だが、来年のプログラムは例年にも増して魅力的な公演がそろっている。
 まず目玉公演となるのはワーグナー・シリーズの《ジークフリート》演奏会形式。《ニーベルングの指環》4部作を毎年一作ずつ上演するシリーズの第3回となる。ワーグナーを知悉する名匠マレク・ヤノフスキがNHK交響楽団を指揮する。前2作でも緊迫感と推進力にあふれたワーグナーを聴かせてくれたヤノフスキとN響だけに、今回も大いに期待できるのではないだろうか。ジークフリートにアンドレアス・シャーガー、ブリュンヒルデにエリカ・ズンネガルド、さすらい人にエギルス・シリンス、ミーメにゲルハルト・シーゲル他、歌手陣も強力。来夏には《ニーベルングの指環》でバイロイト音楽祭に登場するヤノフスキだが、東京では一足先に彼の《ジークフリート》を堪能できることになる。
 リッカルド・ムーティがこの音楽祭に帰ってくるのも朗報だ。日伊国交樹立150周年記念オーケストラを指揮する。これはムーティが10年以上にわたって育成してきたケルビーニ管弦楽団のメンバーと日本の若手トップ奏者たちが集まった特別編成のオーケストラで、ヴェルディを中心にオペラの序曲や聴きどころを演奏する。イルダール・アブドラザコフのバス、ロベルト・ガッビアーニらの合唱指揮による東京オペラシンガーズ他も加わって、コンサートで聴くイタリア・オペラの醍醐味を余すところなく伝える。
 もうひとつ、この音楽祭の柱となっているのが『合唱の芸術シリーズ』。シリーズ3回目となる今回は、デュリュフレの「レクイエム」がとりあげられる。イギリスのレオ・フセインが東京都交響楽団、東京オペラシンガーズ他と共演する。指揮のレオ・フセインは以前N響とも好演を聴かせてくれた新鋭で、ザルツブルク州立劇場音楽監督を務めるなど、コンサートとオペラの両分野で活躍している。デュリュフレのこのうえもなく清澄な祈りの音楽が、深い感銘を与えてくれるにちがいない。
 これら3つの公演に加えて、テノールのクリストフ・プレガルディエン、メゾソプラノのタラ・エロート、バス・バリトンのトマス・コニエチュニーを招く『歌曲シリーズ』や、作曲家でもあり作家でもあるピアニスト、レーラ・アウエルバッハが自作を演奏する『24の前奏曲シリーズ』、Variations(変奏)をテーマにした恒例『マラソン・コンサート』、美術館・博物館を舞台とする『ミュージアム・コンサート』、レスピーギの知られざる素顔に光を当てる『ディスカヴァリー・シリーズ』など、興味深い企画が目白押しとなっている。
 多彩なラインナップを前に、早くも春の訪れが待ちきれない。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年12月号から)

リッカルド・ムーティ(指揮)
日伊国交樹立150周年記念オーケストラ
3/16(水)19:00 東京文化会館
3/17(木)19:00 東京芸術劇場コンサートホール
《ニーベルングの指環》第2日
《ジークフリート》(演奏会形式)
4/7(木)、4/10(日)各日15:00 東京文化会館
デュリュフレ「レクイエム」
4/17(日)15:00 東京文化会館
11/23(月・祝)発売

東京・春・音楽祭 —東京のオペラの森2016—
2016.3/16(水)〜4/17(日)
東京文化会館、上野学園石橋メモリアルホール
国立科学博物館、東京国立博物館 他
問:東京・春・音楽祭チケットサービス03-3322-9966
※音楽祭の各公演の詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.tokyo-harusai.com