ダニール・トリフォノフ(ピアノ)

異次元に誘う独創的なピアニズム

©Alexander Ivanov
©Alexander Ivanov

 今世界で注目を集める20代の若手ピアニストの中でも、一種独特の存在感を放っている、ダニール・トリフォノフ。音楽に没頭し自然発生的に生み出される演奏で、聴く者を“トリフォノフ・ワールド”に導く。過去の巨匠や同時代の名手など、彼を他の演奏家と比べることは無意味でしかない。そう感じさせる強い独創性を持つピアニストだ。
 2011年のチャイコフスキー国際コンクール優勝から4年。多忙な演奏活動を続けるトリフォノフだが、来日の度にレパートリーを変え、新たな一面を見せてくれる。今年のプログラムは、バッハ、シューベルト、ブラームス、ラフマニノフ。これまで多く取り上げてきたショパンやリストは入っていない。
 前半はバッハ=ブラームスの「左手のためのシャコンヌ」というチャレンジングな作品で冒頭を飾る。続くシューベルトのピアノ・ソナタ第18番「幻想」、ブラームスの「パガニーニの主題による変奏曲」第1巻では、自由で枠に捉われない想像力豊かな演奏になることだろう。
 そして後半、彼が敬愛するラフマニノフの作品からピアノ・ソナタ第1番を披露。近年取り上げるピアニストが増えてはいるものの、その長さと技巧的な難しさにより生演奏を聴ける機会は多くない。しかし、作曲家の頭に渦巻くファンタジー、思想、そして祖国や音楽への愛情があふれ出さんばかりの名作だ。この作品を奏でるとき、おそらくトリフォノフに何かが“降臨”することになるのではないか…。そんな予感がする、必聴のプログラムだ。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年7月号から)

10/29(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp

他公演
10/28(水)青山音楽記念館バロックザール(075-393-0011)