唯一無二の歌い手が映し出すピアソラの真髄と愛すべき歌たち
生誕100年を迎えたピアソラが残した名演のなかで歌姫ミルヴァとの共演は忘れ難いが、いま現在、クラシカルな歌唱によってピアソラ作品の真価を引き出してくれるのは、柴田智子をおいて他にいないだろう。数々のオペラで主役を張ってきた確かな実力をもとに、ミュージカルやビートルズのナンバーなどに(手遊びではなく!)本気で取り組んできた柴田は、唯一無二の存在。そしてレパートリーを開拓する精神は今も健在だ。
この日は、追川礼章(あやとし)が再アレンジしたピアソラ作品を5曲歌う。小オペラ《ブエノスアイレスのマリア》からの〈私はマリア〉以外は、柴田がオリジナルの歌詞をつけたという。「〈オブリビオン〉はテノールとの愛の二重唱に仕上げているので、今後も多くのクラシカルな歌い手に歌っていただきたいですね」と柴田は語る。〈アディオス・ノニーノ〉では、ニューヨーク時代にも共演を重ねた舞踊家、馬場ひかりとのコラボレーションもあるので楽しみだ。
柴田が抜擢した追川は1994年生まれの注目のピアニスト・作編曲家。公演のなかでは彼のソロで独自の編曲によるピアソラも披露される。
二重唱で共演する金山京介もオペラで活躍めざましい逸材だ。彼との愛のデュエット特集で歌われるのは、《椿姫》《ルチア》《メリー・ウィドウ》《ウエストサイド物語》と、ベルカントからミュージカルまで幅広い。特にミュージカル化された《マディソン郡の橋》の感動的なナンバーは聴きもの。「不倫でありながらも純愛、本能的でありながら永遠の愛」と柴田が捉える大人の愛は、どのように描かれるのだろうか。
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2021年10月号より)
2021.10/10(日)19:00 豊洲シビックセンターホール【配信あり】
問:二期会チケットセンター03-3796-1831
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