スペインの新星が放つ中南米歌曲の魅力
2011年ボローニャ歌劇場来日公演でベッリーニ《清教徒》に主演し、圧倒的な喉の力で“ハイF”を鳴り響かせたテノール、セルソ・アルベロ。5月の横須賀でのリサイタルを前に、思いのたけを熱く語った。
「今回は、母国スペインのメロディに加えて、中南米の作曲家の歌曲もたくさん歌うつもりです! カナリア諸島に生まれた私にとって、スペイン語で歌うことはもちろん嬉しいものですし、我々スペイン人には、重要な移民文化でもありますからね。スペインとカナリア、そして中南米の諸国は互いに深い絆で結ばれながら文化を創造してきたのです」
アルベロがまず選んだのは、アルゼンチン生まれのグァスタヴィーノとヒナステラ、ベネズエラのブラント、そしてスペイン出身のトゥリーナといった作曲家たちの歌曲。彼らの音楽的な個性とは?
「今回は、それぞれの曲から、作曲家の作風に潜む『歌の歴史』とテキスト(歌詞)の世界観の違いを感じ取っていただけるはずです。例えば、アルゼンチンの2人からは広大な土地の息吹が確かに聴き取れます。また、セビリャ生まれのトゥリーナの旋法には、南スペインに大きな影響を与えたアラビア文化の輝きと香りがしっかりと息づいていて、開放的で民謡風な響きが盛りだくさんです!皆さまが、彼らの個性をそれぞれ楽しんで下さればと思います」
このほか、スペインの民族歌劇サルスエラからも2つの名アリアを歌う予定。
「サルスエラは大好きです。メロディの独特な美しさにはなんとも言えない魅力がありますよ。特にペネーヤ作曲の《ドン・ヒル・デ・アルカラ》のアリアはサルスエラの宝石です。ぜひ聴いてみてください!」
そして、今回はヴェルディの〈燃える心を〉やドニゼッティの〈人知れぬ涙〉〈わが祖先の墓〉など、オペラ・アリアの数々も披露する予定。恩師アルフレード・クラウス譲りの端正な歌いぶりにファンの期待も大きい。
「クラウスさんと知り合えて本当に幸運でした。レッスンは何度も受けましたが、弟子だなんて恐れ多くて(笑)自分からは言えません。でも、彼の最後のアルバムにはコーラスの一員として参加できました。誰からも愛される気さくな好紳士でした…。いまの私は、クラウスさんと同様に、得意なベルカントものを歌うことに大いに満足しています。来年はロッシーニの《ウィリアム・テル》に初挑戦する予定ですよ。今回は、大好きな日本の方々の前で再び歌えることが楽しみです。温かく歓迎して下さる皆さまに感謝を込めて歌います!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2014年5月号から)
★5月25日(日)・よこすか芸術劇場 Lコード:38563
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
http://www.yokosuka-arts.or.jp
他公演
5/28(水)・東京オペラシティ コンサートホール Lコード:38400
問:東京プロムジカ03-3372-7050