円熟を深めた重鎮の音楽世界に浸る
この秋から「高崎芸術劇場 大友直人 Presents T-Mastersシリーズ」が始まる。これは、2019年に開館した高崎芸術劇場が、芸術監督・大友直人によって推薦された日本クラシック界の重鎮演奏家を取り上げるシリーズ。昨年度から実施して好評の若手演奏家による「T-Shotシリーズ」との両輪企画として、経験豊かな大家の円熟した演奏を紹介する。
9月の第1回は、国際的ヴァイオリニストの前橋汀子。17年に演奏活動55周年を迎えた日本きっての重鎮だ。彼女の凄さは、長きにわたって協奏曲、リサイタル、室内楽、録音等のすべてに第一線での活躍を続けていること。14年からはベートーヴェンの弦楽四重奏曲の演奏会を行うなど、音楽表現への意欲は尽きることがない。小品中心の親しみやすいプログラムと、バッハの無伴奏曲の全曲演奏等の本格派プロの双方で魅了しているのも敬服すべき点。今回も、前半にベートーヴェンの「クロイツェル」ソナタ他、後半にドヴォルザーク、マスネ、クライスラー、サン=サーンスの小品を置いて、硬軟双方の音楽を堪能させる。共演はソリストとしても活躍する松本和将。彼のピアノもまた心強い。前橋は持ち前の優雅さや艶やかさに深みや味わいを加えており、今やステージが一つの“世界”を形成している。今回は412席のホールでその唯一無二の世界に浸ることができる得難い機会だ。
なお「T-Mastersシリーズ」は今年度3回開催され、12月の第2回には堤剛(チェロ)、第3回には竹澤恭子(ヴァイオリン)弦楽六重奏の公演が行われるので、シリーズを通して注目していきたい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年7月号より)
*曲目は当初の予定から変更となりました。詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
2021.9/16(木)13:30 高崎芸術劇場 音楽ホール
6/24(木)発売
問:高崎芸術劇場チケットセンター027-321-3900
http://takasaki-foundation.or.jp/theatre/