歌への共感とともに姉妹が奏でるブラームスのヴァイオリン・ソナタ
今年が演奏家デビュー20周年、CD デビュー10周年、ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクール入賞10周年の節目となる小林美樹と、姉でモロッコ王妃国際ピアノコンクール優勝の小林有沙が、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ全曲に挑む。二人にリサイタルに臨む気持ちを聞いた。最初は小林美樹から。
「1曲ずつはありますが、一度に3曲弾くのは初めてです。昔から大好きでいつかはと思っていましたが、こう表現したいという思いだけでは弾けない気持ちがありました。ただ私は最新CD『Anthology』(ソニー・ミュージックダイレクト)のテーマ、『歌』に対する強い憧れがあります。ブラームスのヴァイオリン・ソナタには歌の要素が多く、全曲演奏できたらと思っていましたので、実現して本当に嬉しいです」
各曲に対してどんなイメージを抱いているのだろうか。
「第1番は3曲の中で一番切ないですね。作曲当時、かわいがっていたクララ・シューマンの末の息子フェリックスが24歳の若さで亡くなり、第2楽章中間部は葬送行進曲のようです。幸せな時を振り返っているようなイメージもあります。第2番はCDにも入れた歌曲〈歌が導くように〉と同じ年の作曲ですし、歌っている作品で大好きです。第3番は出口の見えない道を進んでいる感じがします。私も一時音楽活動をどうしていくのか迷った時期がありましたので、とても共感できます」
ピアノの小林有沙が演奏のポイントとリサイタルへの思いを語る。
「作品本来のタイトルは『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ』ですし、2つの楽器の連携がとても大切です。3曲ともピアノから始まりますので、ピアノの役割がとても大きいです。私たちは小さいときから一緒に演奏してきましたから、細かな点まで時間をかけ練習できるメリットがあります。本音で何でも言い合うので、時にバトルになることもありますが(笑)。ベルリン・ウィーンで暮らしてきた私たちが、みなさまにお届けするブラームスへの想いを、ぜひお楽しみください」
最後に、小林美樹にブラームスを弾くときに心がけていることについて尋ねた。
「ブラームスは演奏者に『テンポも気にしなくていいし自由に弾いてね、でも作品を勉強して、その作品を愛して演奏してね』と言ったそうです。全曲通して愛を持って弾けたらいいなと思います。キーワードは愛ですね」
取材・文:長谷川京介
(ぶらあぼ2021年5月号より)
小林美樹 ヴァイオリンリサイタル
2021.6/9(水)19:00 東京文化会館(小)
問:アルペンミュージックオフィス03-5324-2513
http://www.alpenmusic.com
【Information】
CD『Anthology アンソロジー/小林美樹』
シューマン(アウアー編):「ミルテの花」より〈献呈〉
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ
ブラームス(ハイフェッツ編):「5つの歌曲」より第1番〈歌が導くように〉
ヴィエニャフスキ:スケルツォ・タランテラ
武満徹(森山智宏編):「武満徹SONGS」より
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」より第2楽章 ほか
小林美樹(ヴァイオリン/ピアノ)
福田進一(ギター)
坂野伊都子(ピアノ)
ソニー・ミュージックダイレクト
MHCC-30007 ¥2700(税込)