佐藤聰明作曲の二本の映画音楽を収録した。いずれも“音の余白”を大切にしており、ゆったりと寡黙な音楽からは独自の香りが匂いたつ。中国映画『掬水月在手』の音楽は杜甫の漢詩に基づく歌曲集で、唐代の楽器である笙や篳篥のパセティックな響きを貫いて、ソプラノ(工藤あかね)とバリトン(松平敬)が時空間を超えた異界のお告げのように鳴り渡る。ベル・エポックと翼賛体制を駆け抜けた藤田嗣治を描いた『FOUJITA』の音楽は、時代に翻弄されるその生涯を深い哀愁で彩った断章風の作品。音は映像と並び立ちつつ自立する強度も備えており、聴き手のイマジネーションの飛翔を誘発する。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2021年5月号より)
【information】
CD『佐藤聰明:水を掬えば月は手に在り・FOUJITA』
佐藤聰明:水を掬えば月は手に在り、FOUJITA
阿部加奈子(指揮) 工藤あかね(ソプラノ) 松平敬(バリトン) 吉村七重(二十絃箏) 中村仁美(篳篥) 石川高(笙) 花田和加子 川口静華(以上ヴァイオリン) 甲斐史子(ヴィオラ) 松本卓以(チェロ)
杉山洋一(指揮) 仙台フィルハーモニー管弦楽団
篠﨑史子(ハープ)
コジマ録音
ALCD-127 ¥3080(税込)