【Special interview】東京・春・音楽祭 LIVE Streaming 2021〜配信の裏側を開発担当者が語る

東京・上野を舞台にしたクラシック音楽の祭典
ライブ配信も国内最大級!

左より:福田一則(株式会社インターネットイニシアティブ ネットワーククラウド本部 デジタルコンテンツ配信部長)、芦田尚子(東京・春・音楽祭実行委員会事務局長)、木村和人(株式会社インターネットイニシアティブ ネットワーククラウド本部 副本部長 兼 アプリケーションサービス部長)

●進化を続ける音楽祭の新たな試み

 2021年の東京・春・音楽祭は、全プログラム約65公演(アカデミー講義を除く)がライブ・ストリーミング配信される。事前に「配信チケット」を購入後、パソコン・スマートフォン・タブレットなどから特設サイト「東京・春・音楽祭 LIVE Streaming 2021」にアクセスし、公演時間にリアルタイムで鑑賞できる。一見、コロナ下で普及しつつあるネット配信が多数行われるだけのように思われるかもしれないが、ここにはコンサート文化の未来を方向づける先進的な取り組みがある。東京・春・音楽祭実行委員会事務局長・芦田尚子と、高度な配信技術を提供する株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)の開発担当・木村和人、福田一則に話を聞いた。

芦田尚子

 芦田「昨年の春には、一年後もコロナのこんなに厳しい状況が続いているとは思いませんでしたが、今後は何かしらのバックアップが欠かせないと考え、夏頃から2021年の全公演ライブ配信の準備を進めてきました。日本ではまだ有料の“ネット席”が定着しておらず、クラシック音楽に適した配信のあり方を考える必要も十分にあります。理想的なネット配信を実現させるために現実的な予算や機材、技術を含めさまざまに議論しながら、今年の東京春祭では実験的な取り組みを行い、音楽業界全体に働きかけていきたいと考えています」

●多彩なプログラムを最新の配信技術で楽しむ

木村「生演奏で味わえる良さを、いかにネット配信にも持ち込めるか。逆に、ネット配信だからできることとは何か。その両軸で考えていかなければ、結局は『生演奏がいいよね』で終わってしまう。単にライブ映像を流すというだけではなく、何かもう一枚仕掛けがほしいと思いました」

木村和人

 そこで今回導入されるのが、多チャンネル式のライブ配信だ。つまり、一枚の配信チケットを購入すれば、いくつかの選択肢(チャンネル)の中から、その公演を自分の好みに応じたスタイルで楽しむことができるのだ。現段階で実施予定の機能は以下のとおり。

 マルチアングルと高画質・高音質、字幕の配信は、芦田が語る「実験的な取り組み」にあたり、一部の公演に追加される機能だ。私たちが「生のコンサート」で体験している感覚や、能動的に鑑賞を楽しむ姿勢に応えてくれる仕掛けである。公演により導入される機能は異なるが、3月7日にはこれらを試すことのできる「試聴配信(ライブ)」も実施されたのでご覧になった方もいるだろう。

 福田「視聴者の皆さんが、なるべく簡単に操作できる工夫も凝らしています。自宅のくつろいだ環境でワインを楽しみながらとか、外出先でタブレットを操作しながらとか、それぞれの視聴環境に応じた多様なスタイルでお楽しみいただきたいですね。また、コンサート制作側へのご提案として、一人のコントローラーがリモートで複数台のカメラを動かすようなシステムも試行します。いずれはスタッフが現場に入らなくても、ホール収録が可能になる日が来ることでしょう」

福田一則

●上野の春の空気感も届けたい

 東京文化会館をメイン会場とし、美術館や博物館からの配信を通じて、上野の春の空気感も届けたいと芦田は語る。

 芦田「演奏者と聴衆との距離を近づけ、リアルタイムの交流などをいかに図るかといった課題もありますし、まだネット配信そのものに対する抵抗感をお持ちの方もいます。良質な有料ライブ配信を広く認知させていくには、今が正念場。高度な配信技術を持つIIJと連携した東京春祭だからこそ、先鋭的・実験的な取り組みへの期待にお応えしていきたいです」

取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2021年4月号より)

The 15th Anniversary Gala Concert(2019年)より (C)青柳 聡

【information】
東京・春・音楽祭 LIVE Streaming 2021
2021.3/19(金)〜4/23(金)
https://2021.harusailive.jp(配信サイト)
※ライブ・ストリーミング配信の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。