2月から日本だけの“ワーグナー月間”スタート 〜《タンホイザー》を皮切りに4大作を集中上演

文:東条碩夫 

 世界各国のオペラ界がコロナ禍で低迷しているなか、壮大なワーグナーのオペラを3ヵ月の間に4つも上演するというパワーを示しているのは、多分日本だけではなかろうか。

 まず2月には、ワーグナー初期の《タンホイザー》が、東京二期会の制作で17日(水)に幕を開ける。清純な女性エリーザベトと官能の女性ヴェーヌスの間を揺れ動く詩人タンホイザーを主人公とした名作オペラで、〈序曲〉をはじめ、〈巡礼の合唱〉〈大行進曲〉〈夕星の歌〉など有名な曲が多い。
 ピットには読売日本交響楽団と、その常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレが入り、舞台には片寄純也(タンホイザー)、池田香織(ヴェーヌス)、田崎尚美(エリーザベト)ら二期会の歌手たちがダブルキャストで出演する。今回は、かつて新国立劇場の《ニーベルングの指環》で先鋭的な演出を行い、日本のワグネリアンたちを騒然とさせたキース・ウォーナーによる舞台だ。これも話題を呼ぶだろう(全4回公演)。

左より:セバスティアン・ヴァイグレ (C)読響、片寄純也、田崎尚美、キース・ウォーナー (C)Monika Forster

 3月に入ると、まずびわ湖ホール恒例のプロデュースオペラシリーズ、今年は《ローエングリン》。弟殺しの嫌疑をかけられた公女エルザを救うために聖杯グラールの国からやって来た騎士ローエングリンの物語で、オペラ史上空前絶後のヒット曲〈結婚行進曲〉を含む。
 今年は新型コロナ感染対策に配慮してのセミ・ステージ形式上演(ステージング:粟國淳)となったが、むしろその方が音楽を聴くことに集中できよう。昨年までの《指環》で気を吐いた芸術監督・沼尻竜典が指揮する京都市交響楽団の演奏は今年も十全だろうし、福井敬・小原啓楼(ローエングリン)、森谷真理・横山恵子(エルザ)らのダブルキャスト陣にも期待できる。6日(土)、7日(日)の2回公演。

左より:粟國 淳、沼尻竜典、福井 敬、横山恵子

 これを追うように、東京の新国立劇場で3月11日(木)から始まるのが、ゲッツ・フリードリヒ演出による《ワルキューレ》だ(5回公演)。数年前に上演された《指環》4部作の中でも、〈ワルキューレの騎行〉など魅力的な音楽で人気のある名作だ。この演出は意外にストレートなので、あれこれ舞台上での出来事に気を散らされることなく楽しめるのではなかろうか。
 予定されていた指揮者・飯守泰次郎が病後の体調を慮っての降板となったのは痛恨の極みだが、代わって新国立劇場芸術監督・大野和士が指揮するという思いがけぬ朗報が発表された(最終日のみ城谷正博が指揮)。出演はミヒャエル・クプファー=ラデツキー(ヴォータン)、池田香織(ブリュンヒルデ)、藤村実穂子(フリッカ)ら。この顔ぶれは、現状でのベスト・メンバーと言って間違いない。

左より:ゲッツ・フリードリヒ、大野和士、池田香織、藤村実穂子
新国立劇場《ワルキューレ》2016年公演より 撮影:寺司正彦

 そして4月になると、ワーグナー最後の深淵な大作、聖杯グラールをめぐる神秘的な物語《パルジファル》も待っている。これは東京・春・音楽祭恒例の東京春祭ワーグナー・シリーズの一環で、2日(金)と4日(日)に演奏会形式で上演される。
 例年通りマレク・ヤノフスキ指揮のNHK交響楽団が演奏、歌手陣にはクリスティアン・エルスナーの題名役ほか、壮麗な顔ぶれが予定されているが、コロナ禍の今、歌手の来日はなお流動的だ。発表を注視しよう。

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ゲネプロレポート:東京二期会《タンホイザー》が開幕

【Information】
■東京二期会オペラ劇場《タンホイザー》
(全3幕・日本語字幕付き原語(ドイツ語)上演)
フランス国立ラン歌劇場との提携公演《二期会創立70周年記念公演》
2021.2/17(水)17:00、2/18(木)14:00、2/20(土)14:00、2/21(日)14:00 東京文化会館
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
原演出:キース・ウォーナー(演出補:ドロテア・キルシュバウム)
問 二期会チケットセンター03-3796-1831
http://www.nikikai.net/lineup/tannhauser2021/

■びわ湖ホール プロデュースオペラ 《ローエングリン》(全3幕・ドイツ語上演・日本語字幕付)
2021.3/6(土)、3/7(日)各日14:00 滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール
指揮:沼尻竜典
ステージング:粟國淳
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136
https://www.biwako-hall.or.jp
https://www.biwako-hall.or.jp/performance/special/lohengrin202103.html

新国立劇場 楽劇「ニーベルングの指環」第1日《ワルキューレ》
(全3幕・ドイツ語上演・日本語及び英語字幕付)
2021.3/11(木)16:30、3/14(日)14:00、3/17(水)16:30、3/20(土・祝)14:00、3/23(火)14:00 新国立劇場 オペラパレス
指揮:大野和士、城谷正博(11/23)
演出:ゲッツ・フリードリヒ
問:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/walkure/

■東京・春・音楽祭 東京春祭ワーグナー・シリーズvol.12 《パルジファル》(演奏会形式/字幕付)
2021.4/2(金)、4/4(日)各日15:00 東京文化会館
指揮:マレク・ヤノフスキ
*緊急事態宣言の発令に伴う入国制限の影響により、公演中止がとなりました(3/11主催者発表)。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

問:東京・春・音楽祭実行委員会03-5205-6497
https://www.tokyo-harusai.com