禁欲的なヴィブラート、一切の無駄を省いた発音、訥々としたテンポ取り。自在なボウイングで穿たれる、深い彫琢。「この音、チェロの概念が変わる」と帯のコピーにあるが、伊達ではない。首席奏者を歴任し、2013年からソリストとしても活躍する日本屈指の名チェリスト、木越洋。20年以上にわたって全曲演奏会に取り組み、通算100回を超えるという彼が、まさに満を持して臨んだバッハの無伴奏組曲の録音は、驚きと発見に満ちている。紐解く者により、異なる顔を見せる“チェリストの聖典”。「こう弾くはず」などという先入観に捉われていると、たちまち火傷してしまう。
文:笹田和人
(ぶらあぼ2021年3月号より)
【information】
CD『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)/木越洋』
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番~第6番
木越洋(チェロ)
マイスター・ミュージック
MM-4086-87(2枚組) ¥4000+税