オール・ラフマニノフの醍醐味
2002年のチャイコフスキー国際音楽コンクールピアノ部門で、日本人として、また女性として初めて頂点に立った上原彩子。それから10年以上が過ぎ、近年その演奏活動はますます輝きを増している。2013年もプラハ交響楽団やドレスデン・フィルとのツアーにおいて、圧倒的な存在感で注目を集めた。
毎年恒例となるサントリーホールでのリサイタル、今年は得意とするロシアものから、前年に引き続きオール・ラフマニノフ・プログラム。前半はバッハの編曲作品で始め、続けて「幻想的小品集」や「サロン小品集」からの数作品と、「コレルリの主題による変奏曲」を合わせる。一方後半は、結婚前のラフマニノフが妻にあてて書いた歌曲を、ヴィルトゥオーゾピアニストとして活躍したアール・ワイルドが編曲した、「ここはすばらしい場所」「春の悲しみ」。そして、チェロとピアノがロマンティックに歌う「チェロ・ソナタop.19」を、遠藤真理を迎えて演奏する。趣向を凝らしたプログラムから、愛情あふれる一つの物語を読み取ることができそうだ。
近年の上原の演奏からは、豊かな包容力のようなものが感じられる。実際に彼女が3児の母であるというイメージが手伝っているところもあるだろうが、やはりその音や表現それ自体に、内面のプラスの変化が反映していることが伝わってくる。
彼女の遠くまで伸びやかに飛んでくるあたたかい音は、ラフマニノフによく合う。今回も、力強く確信に満ちたラフマニノフを聴かせてくれることだろう。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ2014年1月号から)
★2014年2月2日(日)・サントリーホール Lコード:34137
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
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