第5回 オペラ歌手 紅白対抗歌合戦 〜声魂真剣勝負〜

日本を代表する歌手たちが勢揃いするプレミアムな一夜

 クラシック界の年末の恒例行事としてすっかりおなじみになった「オペラ歌手 紅白対抗歌合戦」。日本を代表する人気オペラ歌手たちが、所属団体の枠を超えて日本のクラシック音楽の殿堂サントリーホールに会し、名アリア・名重唱を披露するというこの企画がスタートしたのは2016年。今年は記念すべき第5回を迎えることになる。毎回、若手から超ベテランまでが舞台に立ち、フレッシュな歌唱から熟練の技まで楽しめるということで、多くのオペラ・ファン、クラシック・ファンはそれぞれお目当ての歌手を心に抱きつつ客席で応援している。今年も、総勢20名が、松尾葉子(紅組)と山下一史(白組)指揮の東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団とともに華やかなステージを彩る。

 主な出演者として、まず紅組は、世界を拠点に活躍するふたりのプリマ・ドンナ、木下美穂子と大村博美がそれぞれ、《ルサルカ》の〈月に寄せる歌〉、《運命の力》の〈神よ、平和を与えたまえ〉を披露する。可憐なリリック・ソプラノとして人気の高い砂川涼子はヴェルディの《オテロ》から哀切極まりない〈アヴェ・マリア〉を。そして、もはや「オペラ紅白」になくてはならない歌手である林美智子は、メゾソプラノの代表的なアリア《ウェルテル》の〈手紙の歌〉を歌う。また、ソプラノ・レッジェーロの第一人者である佐藤美枝子も常連の一人だが、今年は《カプレーティ家とモンテッキ家》の〈おお、幾たびか〉をとりあげる予定。おそらく「入魂」の歌唱で聴衆の心をわしづかみにするのではないかと思う。

 対する白組。日本屈指のトップ・テノール、笛田博昭と村上敏明が揃って登場するとは、オペラ・ファンにとってはたまらない。笛田は《イル・トロヴァトーレ》の〈見よ、恐ろしい炎を〉、村上は《ラ・ボエーム》の〈冷たい手〉と、それぞれのキャラクターを存分に味わえるアリアが予定されている。バスとバリトンからは、やはり「オペラ紅白」常連の妻屋秀和と須藤慎吾が登場。妻屋の《神々の黄昏》からの〈見張り歌〉は通常のコンサートではなかなか聴けないので、この機会は貴重。一方の須藤による《カルメン》の〈闘牛士の歌〉は、盛り上がりが期待できるうってつけの1曲だ。そして若手バリトンで近年特に注目を浴びている大西宇宙の《セヴィリアの理髪師》より〈私は街の何でも屋〉にも期待したい。このほか、ソロだけでなく二重唱も2組ずつで火花を散らす。

 オペラというとハードルの高いものと思われがちだが、このコンサートは特別な知識や予習なども必要ない、ただ純粋にトップ歌手たちのパフォーマンスを楽しめるというところがとてもいい。そして「歌合戦」と掲げているように、観客は最後に紅白どちらかに軍配を上げなければならないので、鑑賞にも力が入ってしまうのだ。出演する歌手たちも仕事というより「声による勝負」を大いにエンジョイしている、ということが毎回演奏から伝わってくる。普段クラシックを聴かないという人にもオススメできるし、もちろんオペラ・ファンも一流の歌声を堪能できる。まだその雰囲気を味わったことのない方は、ぜひ一度体験してみてほしい。
文:室田尚子
(ぶらあぼ2020年12月号より)

2020.12/4(金)18:30 サントリーホール
問:ヴォートル・チケットセンター03-5355-1280
http://operaconcert.net
※出演者やプログラムの詳細は、上記ウェブサイトでご確認ください。