それぞれの時代を生きた“人”のまなざしにじっと耳を傾ける
斬新なプログラム・ビルディングで現代音楽シーンを刺激するアンサンブル・ノマド。9月に延期となった第69回定期では、「うたう過去、うたう土」をテーマに据えたプログラムを披露する。
その心はずばり、“死者の存在を感じる”だ。当代きってのパフォーマー、メゾソプラノの波多野睦美の透き通った声を触媒として、様々な時代・地域の過去が語り始める。ダウランド、カッチーニ、パーセル、ヘンデル、カプスペルガーといったルネサンスやバロック期の音楽が、高橋悠治、渡辺裕紀子、壺井一歩といった現代日本の感性と交歓する。メキシコのエベルト・バスケスはノマドともつながりの深い作曲家だ。コンサートの最後にはブルガリア音楽が披露される。スラヴやトルコの文化が入り混じる民族色豊かなこの地の哀愁を湛えたメロディ、祝祭のステップの数々。リュート(瀧井レオナルド)やブルガリアの弦楽器ガドゥルカ(ヨルダン・マルコフ)なども加わり、漂流・遊牧をその名に掲げるノマドらしい一夜となるだろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2020年9月号より)
2020.9/15(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:キーノート0422-44-1165
https://www.ensemble-nomad.com
※振替公演のため、6月号掲載の記事を一部改変のうえ再掲しました。