ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲は、孤高の精神の旅路である。闇の中を手探りで進むノクターン、骸骨がカチカチと歯を鳴らし襲い掛かるスケルツォ、広大な大自然の前に一人たたずむ瞑想の時を経て、目標めがけて激しく疾走するフィナーレまで、シンフォニックな叙景を続けるオーケストラに、独奏者はほとんど休みなく対峙しなければならない。過酷な音楽だ。だからこそ数々の名演が生まれてきたが、ここに正真正銘の名盤が加わった。イブラギモヴァの音は強靭な意思、不屈の闘志を漲らせ、無類のテクニックでどんな難所も切り抜けていく。その姿に胸を打たれ、そして鼓舞された。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2020年8月号より)
【information】
CD『ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲集/アリーナ・イブラギモヴァ&ユロフスキー&ロシア国立アカデミー響』
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番・第2番
アリーナ・イブラギモヴァ(ヴァイオリン)
ウラディーミル・ユロフスキー(指揮)
エフゲニー・スヴェトラーノフ記念ロシア国立交響楽団
Hyperion/東京エムプラス
PCDA68313 ¥2857+税