頭脳明晰なピアニストが描くベートーヴェンの名作
ドイツはハンブルク生まれの俊英アレクサンダー・クリッヒェルは各国で引く手数多のピアニストである。数学、生物学、語学でも秀でた能力を発揮する理知的なクリッヒェルは、何よりも音楽に対する情熱が深く熱い。その優れたテクニックは彼の理知的かつ詩情溢れる表現を思いのままに伝え、ソロ・リサイタルはもちろん室内楽の分野、そしてオーケストラとの共演を積み重ねてきた。
ソニー・クラシカルからリリースしているロマン派の作品群は、クリッヒェル自身の文学的センスを感じさせる選曲が並ぶ。昨年発表したアルバムには、ベートーヴェンの連作歌曲集をリストがピアノ独奏用に編曲した「遥かなる恋人に寄す」を収め、爽やかさの中にもベートーヴェンらしい深いカンタービレを聴かせた。
そんなクリッヒェルが今年の来日リサイタルで披露するのは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「テンペスト」「月光」「告別」「熱情」である。作曲家の生誕250年に合わせて掲げたこのプログラムには、クリッヒェルのひとかたならぬ思いが込められていることだろう。これら4つのソナタは、それぞれ通り名があることで広く知られているばかりでなく、当時日進月歩で変化を遂げていたピアノという楽器にベートーヴェンが見出した可能性を追求することで書かれたソナタである。ドイツロマン派の先駆的な音楽性を持ったこれらのソナタの輪郭をクリッヒェルがどのように浮かび上がらせるのか、期待が高まる。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2020年5月号より)
*新型コロナウィルス感染症の感染拡大を考慮し、本公演は開催見合わせとなりました。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
2020.5/28(木)14:00 宗次ホール(052-265-1718)
5/30(土)14:00 横浜市栄区民文化センター リリス(045-896-2000)
6/1(月)19:00 武蔵野市民文化会館(小)(完売)
http://www.pacific-concert.co.jp