チャイコフスキー国際コンクール優勝から17年を経た上原彩子の、ロシアもの以外の初録音。チャイコフスキーと彼が敬愛したモーツァルトの意味あるカップリングが光っている。「キラキラ星変奏曲」は優しく温かな表現で、母が子に弾いて聴かせるかのよう。ニュアンス豊かで生彩に富んだ「四季」(5、8、10月は特に惹かれる)からモーツァルトの中でもロマン的な「幻想曲ニ短調」への移行も見事で、二人の意外な同質性を実感させられる。「トルコ行進曲付ソナタ」も表情こまやかな佳演。上原が音楽表現に奥行きを加えていることを如実に示す、傾聴すべき一枚だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2020年3月号より)
【information】
CD『上原彩子のモーツァルト&チャイコフスキー』
モーツァルト:キラキラ星変奏曲、幻想曲ニ短調、ピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付」/チャイコフスキー:四季
上原彩子(ピアノ)
キングレコード
KICC-1501 ¥3000+税