青柳 晋(ピアノ)

リストからベートーヴェンのラスト・ソナタへの旅


 ピアニストの青柳晋が2006年から毎年開催している自主企画リサイタル『リストのいる部屋』。リストを“ホスト”に据え、“ゲスト”作曲家を一人選びプログラミングするこのシリーズには、これまで様々な作曲家が登場してきた。今回、リストの「巡礼の年 第1年『スイス』」と並ぶのは、ベートーヴェン最後のピアノ・ソナタである第32番(op.111)だ。

「私にとって、ベートーヴェンはあまりにも高い壁のような存在でした。スケール、アルペジオ、和音とシンプルな要素でできているぶん、ピアニストとしての基礎的なテクニックがすべて露わになってしまいます。また、同時にそのシンプルな中から多くのメッセージを伝えていかなければなりませんから、強い“人間力”が求められると思うのです」

 確かに、これまで青柳はあまり演奏会でベートーヴェンを取り上げてこなかった。

「ずっと弾きたいとは思っていたんですよ。なので、昨年意を決して取り組みました。やはり弾けば弾くほど難しさを感じますが、演奏にあたって何を重視すべきかはわかってきました。それは“純度”。たとえば“ドミソ”という和音やスケール、アルペジオなどシンプルな音型を弾いたとき、そこからどれだけ高い純度の音質や響きを抽出できるかということが本当に大切になってくると思うのです」

 また、改めて演奏することで曲に対する見方も変わってきたという。

「昔は、特に後期ソナタはものすごく歳を重ねた人の音楽だと思っていたのですが、彼がこれを書いたのは52歳前後。若いんですよね。実際、音楽からも若々しさが溢れているなと。色々なものを積み重ねてきた人が、若者と同じように夢を見て、怒って、愛して…と、燃え盛るようなパワーを感じます」

 リストの「巡礼の年 第1年『スイス』」全曲と、第32番のソナタという組み合わせには非常に強いテーマ性も感じられる。

「『巡礼の年』の第1年は牧歌的な雰囲気が漂いつつ、一つの壮大なストーリーが成立していますよね。そして第32番のソナタは、“人間とは何か”というものすごく深いテーマを感じます。この2曲には近いところがあるように思えます」

 実際にピアノ・ソナタを公演で取り上げたことで、ベートーヴェンという作曲家との距離が縮まったようだ。「今後はベートーヴェンの室内楽作品を全曲演奏していく予定です」と話してくれた。今回の「リストのいる部屋」では、さらに進化し続ける青柳のピアニズムを堪能できることだろう。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2019年12月号より)

青柳 晋 自主企画リサイタルシリーズ リストのいる部屋 Vol.14
2019.12/20(金)19:00 Hakuju Hall
問:ジェスク音楽文化振興会03-3499-4530 
http://www.susumuaoyagi.com/