あれから10年、名手の“深化”を聴く
高度な技巧と情緒豊かな表現で魅せる実力派ヴァイオリニスト・松田理奈が、12月に紀尾井ホールでリサイタルを行う。これは、2010年1月に演奏&ライヴCDを録音したラヴェルの3作品─「遺作」のソナタ、ソナタ ト長調、ツィガーヌ─を、当時と同じホール、同じ清水和音のピアノで演奏し、10年間の深化を披露するという、特別な意味を持った公演だ。
「この10年の間に生活環境の変化や色々なコンサートを経験する中で、音楽を聴くこと、研究すること、演奏することが楽しくなってきたんです。20代前半だった当時はレッスンを受ける日々で『こうやらなければ』との思いが強かったのですが、最近は『こんなふうにやりたくて仕方がない』というポジティブな気持ちが増してきました。そんな折、清水和音さんとのリハーサルの合間にたまたま二人でラヴェルのCDを聴いたのです。すると当時とは曲の感じ方が違っていました。今ならもっと楽しく弾けますし、微妙なニュアンスも出せるのではないかと。こうした変化が演奏にどう反映されるのか? 今回とても楽しみにしています」
彼女にとって清水との共演は格別だ。
「16歳の夏以来、アンサンブルを含めて年1〜3回ご一緒させていただいていますが、いつも音と音楽を優先し、フラットなスタンスで言葉をかけてくださるので、とても良い刺激を受けています。それにあれほどピアニスティックでありながら、必要な箇所では弦楽器と見事に融合されるのが凄い」
プログラムは、前半がモーツァルトのソナタ へ長調 K.377とブラームスのソナタ第2番で、後半がラヴェルの3曲。
「昨年ブラームスの1番を弾いたので今回は2番を演奏し、それに合う曲としてモーツァルトのK.377を選びました。この曲は明るい雰囲気があって、変奏曲を含んでいるのが妙味。それにヴァイオリン・ソナタでありながらピアノのメロディで始まるのがプログラムとして面白いと思います。ブラームスの2番は、歌心があって対話が明快な作品。ラヴェルの遺作のソナタは、初期に書かれた爽やかな小曲。一方有名なソナタは響きも吟味されており、ラヴェルの緻密さが芸術になっています。約30年離れた2曲の対比に加えて、和音さんが弾くラヴェルのピアノ・パートを聴けるのも楽しみの一つです。そして『ツィガーヌ』は大好きな1曲。以前はかなり力強く弾いていましたが、今は“音で匂わせる”ような演奏をお届けできればと思っています」
奥行きのあるプログラム自体が魅力だし、「最近はフランスに行く機会が多く、この国独特のニュアンスも感じている」と話す彼女の“今のラヴェル”を堪能したい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2019年11月号より)
松田理奈 ヴァイオリン・リサイタル
2019.12/17(火)19:00 紀尾井ホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp/